平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 平成二十年十一月五日(水曜日)(未定稿 ) 午後一時一分開会 ○委員長(北~俊美君 ただいまから外交防衛 委員会を開会をいたします。 テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の 実施に関する特別措置法の一部を改正する法律案 を議題といたします。 本日は、参考人として、ペシャワール会現地代 表中村哲君及び独立行政法人国際協力機構広報室 長力石寿郎君に御出席をいただいております。 この際、参考人の方々に対し、本委員会を代表 いたしまして一言ごあいさつを申し上げます。 本日は、大変御多用の中にもかかわりませず本 委員会に御出席をいただきまして、誠にありがと うございます。特に中村参考人は、遠路、長時間 を掛けての御出席を御快諾をいただきまして、誠 にありがとうございました。 皆様から忌憚のない御意見を拝聴して、今後の 審査の参考にしてまいりたいと存じておりますの で、本日はよろしくお願いをいたします。 議事の進め方について申し上げます。 まず、中村参考人、力石参考人の順にお一人二 十分程度で順次御意見をお述べいただき、その後、 委員からの質疑にお答えをいただきたいと存じま す。 御発言の際は、その都度、挙手の上、委員長の 許可を得ることになっておりますので、御承知お きをいただきたいと思います。 また、参考人、質疑者とも発言は着席のままで 結構でございます。 それでは、まず中村参考人にお願いをいたしま す。中村参考人。 ○参考人(中村哲君 ) 中村です。 ペシャワール会現地代表として発言を許してい ただきたいと思います。 私は、実はおとといまでジャララバード北部に あります干ばつ地帯の作業現場で土木作業をやっ ておりました。なぜそうなのか。今日の議題と一 見関係ないようですけれども、実はアフガニスタ ンを襲っているのは、最も脅威なのは大干ばつで ありまして、今年の冬、生きて冬を越せる人がど れぐらいいるのか。恐らく数十万人は生きて冬を 越せないだろうという状況の中で、私たちは、一 人でも二人でも命を救おうということで力を尽く しております。そのために用水路の建設、これは 冬が勝負のしどころでありまして、何とか完成し ようということで力を尽くしておるわけでありま す。 繰り返しますけれども、アフガニスタンにとっ て現在最も脅威なのは、みんなが食べていけない ということであります。 イギリスの著名な団体の発表によりますと、恐 らく五百万人の人々がまともに食べられない、飢 餓状態にあるというのがアフガニスタンの現実で ありまして、このみんなが食べていけない状態、 そのためにみんな仕方なく悪いことに手を出す、 あるいは傭兵となって軍隊に参加するという悪循 環が生まれておりまして、今日審議される事柄と 決して無縁どころか、一つの大きな要因を成して おるのではないかというのが私たちの認識であり ます。 例えば、穀物の自給率は半分以下、小麦の価格 はこの一年で三倍から四倍に高騰しておりまして、 普通の人々はもう生きていけない。私たちのこの 職場でも、職員百五十名の給与を過去五回にわた って上げましたけれども、それでも食えない状態 と。一般の人々にとっては戦争どころではないと いうのが思いであろうかというふうに私たちは考 えております。 衣食足って礼節を知るといいますけれども、ま ずみんなが食えることが大切だということで私た ちはこのことを、水それから食物の自給こそアフ ガニスタンの生命を握る問題だということで、過 去、ペシャワール会は干ばつ対策に全力取り組ん できました。私たちは医療団体ではありますけれ ども、医療をしていてこれは非常にむなしい。水 と清潔な飲料水と十分な食べ物さえあれば恐らく 八割、九割の人は命を落とさずに済んだという苦 -1-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 い体験から、医療団体でありながら干ばつ対策に 取り組んでおります。 その結果、現在、ジャララバード北部、具体的 にはニングラハル州北部全域に展開いたしまして、 五年前から用水路の建設に着手いたしまして、現 在二十キロメートルを完成しつつあります。その 結果、それまで荒廃していた砂漠化地帯で十数万 人の人々が帰ってきて生活できるようになる。更 にこれが二十数キロ完成いたしますと約五千ヘク タールから六千ヘクタールの新たな開墾地が生ま れまして、二十万人、三十万人以上の食料需給が 可能になるということで、地域住民と一体になっ て仕事を進めておるところであります。 それだけではなくて、こういった人海戦術を使 った、現在五百名以上の作業員が私たちと仕事を しておりますけれども、当然雇用が発生する。そ れを聞き付けて、パキスタンに逃れておった干ば つ避難民が戻ってくる、あるいは国内避難民が戻 ってくるということで、仕事をしている間は日当 で何とか食い、それから水が来れば、これは自分 たちの土地ですから、自給自足の国なんですね、 アフガニスタンは八割以上が農民の国でありまし て、彼らは水さえあれば、所得こそ少ないですけ れども、農産物さえあれば決して貧しい国ではな い。彼らの要求というのはそう高くない。家族が まず一緒にふるさとにおれて十分な食べ物がある こと、それ以上の望みを持つ人は私は少ないと思 います。 そういうことでありまして、私たちは、まずは 水、それも清潔な飲料水。これは、具体的には千 五百本の井戸を私たちは掘ってきましたけれども、 この事業も継続されております。さらに、農業生 産力、農業自給率を高めるということに力を尽く しております。 さらに、今アフガニスタンの問題がいろいろ言 われておりますけれども、この干ばつに加えまし て、アフガニスタンをむしばんでおるのが暴力主 義であります。これは、アフガン人の暴力である こともありますし、外国軍による暴力のこともあ る。これがアフガンの治安の悪化の背景を成して おりまして、私どもはこれに対しても心を痛めて おる次第であります。 今、盛んに報道されておりますけれども、アフ ガニスタンは現在治安の悪化が、悪くなる一方で ありまして、しかもその治安悪化が隣接するパキ スタンの北西辺境州まで巻き込んで膨大な数の 人々が死んでおるということは皆さん御存じだと 思います。 先ほど冒頭に述べました干ばつとともに、いわ ゆる対テロ戦争という名前で行われる外国軍の空 爆、これが治安悪化に非常な拍車を掛けておると いうことは、私は是非伝える義務があるかと思い ます。 一口にいろんな反政府運動だとか武装組織だと 言いますけれども、基本的にこのアフガン土着の 反抗勢力を見渡してみますと、基本的にアフガン の伝統文化に根差した保守的な国粋主義運動の色 彩が非常に濃い。切っても切っても血がにじむよ うに出てくる。決してある特定の、旧タリバン政 権の指令一つで動いておるわけではない。いろん な諸党派が乱立しまして、それぞれに外国軍と抵 抗している状態。それから、かつてなく欧米諸国 に対する憎悪が民衆の間に拡大しているというの は、私たちは水路現場で一般の農民たちと接して おりまして感じる実感であるということは伝えて おきたいと思います。 もちろん、いろんな反抗勢力の中には、私たち の伊藤君、職員の一人であった伊藤君が犠牲にな ったように、とんでもない無頼漢もいますけれど も、各地域でばらばらにそういった自発的な抵抗 運動が行われておる。それだけ根が深いわけであ りまして、恐らく二千万人のパシュトゥン民族、 農民を抹殺しない限り戦争は終わらないだろうと いうのは、これは私ではなくて、地元の人々、こ れは地元のカルザイ政権も含めた人々たちの意見 でありまして、しかも、武装勢力といっても、ア フガン農村について日本で知っている人は少ない と思われますけれども、兵農未分化、すなわち侍 -2-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 と百姓が未分化な社会でありまして、すべてのア フガンの農村は武装勢力と言えないことはない。 その中で混乱状態が何を引き起こすかというのは 御想像に任せたいと思います。 しかも、アフガン農村では復讐というのは絶対 のおきてであります。ちょうど赤穂浪士のような ものなんですね。 私たちはニュースの上で、アメリカ兵が今年は 何名殺された、カナダ兵が何名殺されたというこ とはニュースになりますけれども、その背後には、 一人の外国兵の死亡に対して、何でもない普通の 人が死ぬアフガン人の犠牲というのはその百倍と 考えていい。すなわち、外国人の戦死、あるいは 犠牲者の百倍の人々が、日々、自爆要員、いわゆ るテロリストとして拡大再生産されていく状態に あるということは是非伝えるべきだと私は思いま す。 アフガニスタンとパキスタンの国境地帯もこの 悲劇が及んでおりまして、現在、抵抗勢力が何か 危ないとパキスタン側に逃れるということで、パ キスタン側、アフガニスタン側両側から挟み打ち のようにして軍事作戦が行われておるようであり ますけれども、これがまた、今度は、うそのよう な話で、パキスタン国境地帯からアフガン側に流 れてくるパキスタン難民というのが発生する。こ ういった事情の中で、私が二十五年いる中では現 在最もアフガニスタンは治安が悪くなっておる状 態だと言うことができると思います。 さらに、対日感情につきましても、これは少し ずつ陰りが見えてきておるということは私は是非 伝えておく必要があると。かつて広島、長崎とい うのは現地では有名でありまして、アフガン人の 知識人のほとんどは、アフガニスタンの独立と日 本の独立が同じ日だというふうに信じている人が 多いくらい親日的なんですね。ところが、最近に 至りまして、米国の軍事活動に協力しているとい うことがだんだん知れ渡ってくるにつれて、私た ちも身辺に危険を感じるようになりました。 やはり、あの最も親しいと思っていた日本が同 胞を殺すのかと思えばこれは面白くないわけであ りまして、これは日々日本に対する感情は悪くな っているということははっきり言ってもいいんじ ゃないかと思います。かつては、我々、外国人、 欧米人と間違えられないために日の丸を付けてお れば、まず山の中のどこに行っても安全だった。 ところが、今その日の丸を消さざるを得ないとい う状況に立ち入っているというのが現実でありま す。 私の舌足らずの点は後ほど質問の中でるるお答 えしたいと思いますけれども、現在、日本の中で いろんな議論がされておりますけれども、よく私 たち、私たちといいますか、日本で当然のように 議論のベースになっておる国際社会という言葉、 これに私は率直に現地から疑問を呈さざるを得な い。国際社会という実態は何なのか、少なくとも アフガンの民衆は国際社会の中には入っていない ということは、一連の議論の中から私が率直に、 先ほど忌憚のない意見をということでしたので忌 憚なく申し上げますと、国際社会の実態というの は、少なくともアフガニスタン、パキスタンの民 衆はその中には入っていないということは言える と思います。 私たちは、国際社会、国際協力、国際貢献と言 うときに、何をもって国際と言うのかという土俵 からして十分な審議を尽くさなくちゃいけないの ではないかというふうに思います。 話が長くなりますけれども、やはり、これは国 際というのは、国や国家が、国家、民族、宗教を 超えて、人々が互いに理解し合って命を尊重する こと、これが平和の基礎であろうと、現地に行っ て分かるわけですよね。今、日本はその分かれ目 にある。これが最後になりますけれども、いかに より良い世界、より安全で平和な日本を自分たち の子孫に残すかと。我々は十年、二十年かすると 死ぬ、あるいはぼけてこの世からいなくなってく ると。この日本の子孫たちにどういう世界を残す のか、私たちは岐路にあると思います。 このアフガン問題というのは確かに局地的な国 -3-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 際紛争かもしれませんけれども、これを目先の政 治的な道具の具にしたり、あるいは目先の経済的 な利益という観点から見るのでなくて、実際にこ れからの日本の岐路を決定する重要な問題だとし て先生たちの十分な討議をお願いいたしまして、 舌足らずではありますが、私の意見とさせていた だきます。 どうも御清聴ありがとうございました。 ○委員長(北~俊美君 ありがとうございまし た。 次に、力石参考人にお願いをいたします。力石 参考人。 ○参考人(力石寿郎君 本日は、このような機 会を与えていただきまして、誠にありがとうござ います。 私の方からは、我が国及びJICAがこれまで アフガニスタンに対して行ってきた復興支援につ きまして御説明をいたしたいと思います。 お手元にお配りしております資料がございます。 「アフガニスタンの復興支援について」という資 料でございます。一は国際社会における復興プロ セスということで、先生方もよく御存じだと思い ますので、これを説明する代わりに、これと、一、 二、三、四ページ目に大きな資料が添付、カラー の資料が添付され…… 発言する者あり ) ○委員長(北~俊美君 ちょっと速記を止めて ください。 〔速記中止〕 ○委員長(北~俊美君 ) 速記を起こしてくださ い。 ○参考人(力石寿郎君 ) それでは、この大きな カラーの縦表がございますでしょうか、こういう、 これの大きいやつでございます。それをちょっと 御覧いただきたいと思います。 これの、アフガニスタンの支援を理解する上で 非常に分かりやすい見方は、一番上のこの緑色の 部分、これがいわゆるボン・プロセスという政治 プロセスでございます。すなわち、タリバン政権 崩壊後のアフガニスタンの建国のための基礎づく り、これが、議会の形成ですとか大統領選挙です とか、そういった一連の政治的な枠組みをつくる プロセスをボン・プロセスと呼んでおります。こ れが一番左の上の緑の部分。 それから、それに続く部分がアフガニスタン・ コンパクト。これはアフガニスタンの開発の計画 でございます。ANDSと書いてございますのは、 アフガニスタン・ナショナル・ディベロップメン ト・ストラテジーという略でございまして、通称、 我々はアンズと呼んでおります。この中に今後の アフガニスタンの開発の方向性を記した計画書が ございまして、これが承認され、そして二〇〇八 年、今年でございますが、これが正式にフル・ア ンズといいますか、完成型になったという状況で あります。 そして、その欄の下にずっと、左側に赤い字で 分野が書いてありまして、これまで日本がやって きた様々な協力が分野ごとに記されてございます。 この一つ一つのバーが協力の長さを表しておりま す。 ざっと御覧いただければお分かりのとおり、か なり多くの協力事業を日本政府及びJICAの方 で展開してまいったわけでございます。 今日は時間も非常に少のうございますので、そ の後ろの方に、その次のページですね、二枚ほど 地図、カラーの地図と囲みがあるのが続いており ますけれども、この最初の地図の方がJICAが アフガニスタンに対して行ってまいりました支援 プロジェクトのマップになっておりまして、一枚 目のマップが二〇〇二年七月から二〇〇八年十月、 先月までですね、で終了した案件のプロジェクト の名前がエリアごとに記してございます。そして、 次のページが十一月四日現在ということで、今も なお実施中のプロジェクトの数々を地域別に表し てございます。 これだけ文字で御覧いただいてもなかなか分か りづらいということもありますので、その後のペ ージから写真を幾つか、先生方に具体的なイメー ジを持っていただくための写真を用意してござい -4-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ますので、御覧いただければと思います。 一番最初はカブールの現状ということで、カブ ールってどんな感じなのかなというところで幾つ かの写真を御紹介してございます。この右下の写 真の山が見えますが、これ多分アスマイ山だと思 いますが、貧困層の人たちが家を造ってそこに住 んでいる。水がないので、一番下まで下りてきて、 くんでまた上に持って上がるというような状況で ございます。カブール市は今非常に人口が過密に なっていまして、従来のカブール市が持っていた いわゆる許容量をはるかに超えた人口が住んでい るがために様々な生活上の不便が生じている状況 にございます。 次のページをちょっと御覧いただきますと、こ れからは分野別にどういうことをやってきたかと いうのを絵で御紹介してございます。最初が社会 基盤の復旧支援。これは、二〇〇二年から開始さ れた緊急復興支援調査というのをJICAが行い まして、調査だけではなく、実際に物を直しなが ら調査を進めていくという新しい手法で支援をし たものでございます。 例えば、最初の上の方がカンダハルの道路プロ ジェクト、それから右側の方がマザリシャリフの 市内の目抜き通りの道路プロジェクト、これ、い ずれも未舗装で大変な土ぼこりが上がっていたと ころを緊急に舗装いたしまして市民の生活の便宜 に供しているということでございまして、非常に このプロジェクトは感謝されております。それか ら、下の方は学校施設、これはカブール六校、カ ンダハル七校、マザリシャリフ七校、これを建設 いたしました。それから、以前、一九七〇年代に プロジェクトとしてやっておりました結核研究所 のプロジェクト、これの建物がもう瓦解寸前の廃 墟になっていたものを完全修復してよみがえらせ て、今は非常に活発に結核の防止の活動が行われ ているということでございます。右下の写真がカ ンダハルの農業水路、これは、しばらく手が入っ ていなかったものですから、土砂が埋まって役に 立たなかったものをしゅんせついたしまして、十 キロメートルしゅんせつをして元のかんがい水路 の復活を図ったと。 次のページに行きますと、除隊兵士の社会復帰 支援というのをJICAの方で実施しておりまし て、これはカブールにおきまして五百五十名の除 隊兵士に対する職業訓練を実施しまして、この一 番上の写真の真ん中に写っている方は日本人の J ICAの専門家、アドバイザーでございます。こ れは二〇〇四年一月からやったプロジェクトです が、約四年たちまして、四年ちょっとたちまして、 今は非常に軌道に乗っておりまして、ここの職業 訓練校を卒業した人たちの六〇%以上が就職でき るに至っております。 様々なコースで、自動車整備ですとか溶接とか コンピューターとかそういうことを、除隊した兵 士に手に職を与えて就職を図っているということ でございます。 それで、次が実施中の重点分野における支援の 幾つかを御紹介しております。 最初は、農村開発分野。これにつきましては、 かんがいや道路、農道ですね、それから農村のイ ンフラ改善をやっておるプロジェクト。それから 農民の生活向上支援。さらには、中央から地方に 自治権が移譲されるんですけれども、それにまだ 十分な用意ができていないと、能力が追い付かな いというところで、行政の能力向上支援もやって おります。その他、ナンガハル州の稲作農業改善 支援。この一番下の、左下の写真がジャララバー ドで稲作指導を直接支援しているJICAの日本 人専門家でございます。右下の方の写真は農村道 路の再建なんですけれども、これは参加型のプロ ジェクトでございまして、どういうふうにやるか といいますと、まず、いろんな近くの村落の住民 の代表者をみんな集めまして、農村開発委員会と いうものを組織します。この委員会がそれぞれの 住民の意見を調整しながらプロジェクトを実施す るというやり方です。住民自らが決めたプロジェ クトを地域住民が参加してこれを実施すると。隣 の村、そのまた隣の村との連帯をつくっていくと -5-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 いうような手法の援助でこの道路再建をやってい るという例でございます。 次が保健医療セクターでございまして、これま でやってきた主なものは、建て直しをした国立結 核研究所を中心にした結核予防のプロジェクト。 それからリプロダクティブヘルスですね、母子保 健を中心とした能力向上のプロジェクト。さらに は、都市型保健システム。これは病院のレファレ ルシステムとか、そういったものが中心なんです けれども、それの整備、ノウハウの伝授というよ うなプロジェクトをやっております。 次のページは教育セクターでございまして、ま ず、フォーマル教育。一年から六年生の教師用教 材の作成ですとか、いわゆる教育指導要領の作成。 それから、一万人の教員に対するトレーニング。 まず、アフガニスタンでは先生の数が足りないん です。就学児童はどんどん増えていきますので、 先生の教育を急がなくちゃいけませんが、なかな か、その基になる指導要領がないと、素人の先生 がいい授業ができないということになります。そ こで、全国共通の学習指導要領をJICAの協力 で作りまして、相手側と相談しながらもちろん作 るわけですが、それを全国に頒布いたしまして、 それを使って学校で先生方が子供たちを教えると、 こういうような構造になっております。そのほか では、障害児の教育。戦争や地雷で傷ついた身障 者、そういった児童も多いので、これらに対する 教育の整備、そういうことをやっております。 それから、ノンフォーマルの教育分野では、識 字教育ですね。非識字者を対象として、今のとこ ろ約千六百人を対象に識字教室、それから職業訓 練を併せて実施するようなプロジェクトをやって ございます。それから、約一万人に対する識字教 育の実施につきましては、カブール、バーミヤン、 マザリシャリフといったところで行っております。 写真はそれぞれの現場を写したものでございます。 さらに、教育セクターで職業訓練、これにつき ましては先ほど御紹介しましたので、ダブります ので省略いたします。 さらに、その次のページで運輸交通セクターが ございますが、これまでにやってきた日本の貢献 としましては、まず、カブール―カンダハール、 約五十キロの道路。それからカンダハールとヘラ ート間、百十四キロメートルの道路。マザリシャ リフの市内道路、こういったところを中心に無償 資金協力で実施しております。さらに、道路を造 っただけでは早晩傷んできますので、これをどう やって管理するかというノウハウを教えるために、 公共事業省の道路維持管理局の能力向上プロジェ クトを技術協力で行っております。さらに、カブ ールの道路技術センターを修復しまして、そこで 十分な訓練が行えるようにしております。 次のページは都市開発セクターでございます。 これは、先ほど申し上げたように、カブールの 持続的な開発に向けた計画策定支援、つまり、カ ブールのいろんなインフラや何かが能力を超える 人口を抱えるに至っておりまして、このままに放 置しますといずれのインフラ機能も麻痺して多く の住民が困窮するということなので、これから首 都であるカブールの機能をどうやって維持発展さ せていくかという開発計画を策定しまして、その 開発計画に基づいて個々のプロジェクトを実施す るという手法でやっております。 一つは、今深刻な問題はカブール市の水が大変 不足しておるということでございまして、今やっ ておりますのはカブール盆地の深層地下水の賦存 量調査、それからカブール市内の水供給のための 新たな水資源開発、こういったことも実施してお るところでございます。それから、カブール首都 圏の地形図、これは正確なものが存在していない のでいろんなプロジェクトをやるに対しても不便 がございますので、これを作っていると。さらに、 カブールでもう一つ足りないものは電力でござい ます。この電力の供給改善支援をやっておるとい う状況です。 下の写真は深層地下水の調査ですが、みんなき れいに仲良く並んでいますが、これ、実はこのリ グは五百メートル以上の深層地下水の調査も実施 -6-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 できる機材でございます。それから、右の写真が 地形図作成の技術指導を日本人の専門家がやって いるところでございます。 以上が、これまで日本政府、JICAがやって まいったプロジェクトの概要でございます。 今後でございますけれども、先ほど触れました アフガンの国家開発戦略に基づいて引き続き保健、 教育、農業・農村開発、インフラ整備などの分野 で支援を継続してまいりたいと考えております。 また、アフガニスタン側の自助努力の促進、政府 の行政能力の強化、これを同時に図っていきたい と考えております。さらに、首都カブールの再生 のための先ほど申し上げたような新都市の建設も 含めた将来計画を作るというようなことをやって ございます。 安全対策でございますけれども、先ほどお話が ありましたように非常に治安が悪化しておりまし て、一つ例をここで引用させていただきますと、 治安に関する事件の数でございます。二〇〇三年 は全アフガニスタンで五百八件発生していたのが 二〇〇七年は六千七百九十二件に達しております。 それから、いわゆる自爆テロ、爆弾を爆発させて 攻撃するやり方ですが、二〇〇三年には二件発生 していたものが二〇〇七年では百六十件に増えて おります。この数字を御覧いただくだけでかなり 治安が悪化しているということが御認識できるの ではないかと思います。 JICAの方では、これら刻々と変わっていく 治安情報の収集、それからお互いの連絡体制の整 備、それと、ちゃんと万一のときに身を守る防弾 車の使用、それから安全確保のための行動規制と いうものを課しております。これはすべてのJI CA関係者にあまねく適用している安全対策方策 でございます。 最後に、今四十五から五十五ぐらいでしょうか ね、まあ人の人数は変わりますが、それぐらいの 規模でJICAの事業は展開しておりますが、今 非常に治安が悪くなってきたということもあり、 彼らが日常生活する上で非常に大きな規制をさせ ていただいていまして、想像を絶する困難な勤務 を強いているところでございます。 例えば、買物に行ってはいけないと、町に歩い て出かけてはいけないと。それから、外食は許さ れないと。全部賄いですね。自分の宿舎で食事を 作って食べるということであります。それから、 不要不急のもちろん外出、車での外出も含めて不 要不急の外出はしてはいけない。通勤時間帯は毎 日変更しなさい。それから、テロの標的になりや すい施設や軍の関係の施設などには近づかない。 そのようなことを強いておりまして、もちろん娯 楽などは皆無でございます。そういう中で、長い 人でありますと二年を超える勤務をお願いをして おって、本当に我々、同僚も言っておりますけれ ども、頭の下がる思いがしております。 このような状況で、歯を食いしばって引き続き アフガニスタンの支援に邁進しているところでご ざいます。 以上で私の御報告を終わります。 ○委員長(北~俊美君 ) ありがとうございまし た。 以上で参考人の意見陳述は終わりました。 これより参考人に対する質疑を行います。 質疑のある方は順次御発言を願います。 ○犬塚直史君民主党の犬塚です。 両参考人、本日はありがとうございます。 新JICA、これは絶対に成功させなければい けないという気持ちも多分共有させていただいて いると思いますし、我々も全力で応援をする覚悟 であります。 今日は、遠いところ、中村参考人、ようこそお 越しいただきました。 我々は、こうして一万キロも離れた居心地のい い会議室でアフガニスタンのことを論議している わけであります。ただ、先ほど参考人がおっしゃ ったように、今が日本の岐路であるという気持ち は与野党を通じて共有させていただいていると思 います。 そこで、まず、中村参考人が、これはもう既に -7-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 七年前の衆議院の参考人としてこちらに、日本の 国会にお越しいただいたときにこういうことを言 っております。日本に対する信頼というものは絶 大なものがある、それが、軍事行為に、報復に参 加することによって駄目になる可能性がある、私 たちが数十年掛けて営々と築いてきた日本に対す る信頼感が、現実を基盤にしないディスカッショ ンによって、軍事的プレゼンスによって一挙に崩 れ去るということはあり得るということをおっし ゃっているわけですけれども、外からこの日本の 国会の論議を見ておられて、今どういうふうにお 感じになっておられますか。 ○参考人(中村哲君 これはおっしゃるとおり でありまして、先ほど申しましたように、どうい う立場から、どこで、何を見ようとして見るかと いうことで見え方は違いますけれども、少なくと も、一般の九九%のアフガン人の気持ちに立って 物を見ますと、これは確実に私の言ったとおりに、 空から降ってくるあの爆弾が、日本もそれに加担 してやっているという認識が少しずつ浸透するに 従って我々の身辺も危なくなってきているという ことは是非お伝えしたいと思います。 以上であります。 ○犬塚直史君そうした困難な状況の中、二十五 年余にわたって、まさに現地化というよりも土着 化して、これは中村先生がおっしゃったことです が、土着化して頑張っている活動に心から敬意を 表したいと思います。 その上で、私は最近、現地でヨーロッパのPR Tと民軍が一緒になっている活動の実態を聞き取 り調査をした際に、何が何でも応援はするが、モ スクだけは再建することはできないというような お話があったのが非常に印象に残りました。 そこで、中村医師の報告の中で、「誤解される 「マドラサ 」 と、マドラサというのはイスラム 神学校と訳されているわけですけれども、これに ついての御報告がありました。ちょっと引用させ ていただきます。マドラサは通常イスラム神学校 と訳され、タリバーンの温床として理解されてい るが、実態は少し違います。マドラサは地域共同 体の中心と言えるもので、これなしにイスラム社 会は成り立ちません。イスラム僧を育成するだけ ではなく、図書館や寮を備え、恵まれない孤児や 貧困家庭の子供に教育の機会を与えるという、そ のマドラサを水路と一緒に再建の協力をさせたと いう、その体験を少しお話しいただけますか。 ○参考人(中村哲君 ) まず、PRTについて言 いますと、ほかの地域は知りませんけれども、ジ ャララバードを中心に、東部、南部、北部で、北 部というか北東部で行われておるPRTの実態と いうのは、実は軍事活動の一環としてとらえてま ず間違いない。 例えば医療関係でいいますと、突然米軍の装甲 車がやってきて薬を配らせてくれという、診療所 で。で、とんでもない、なめちゃいけないよ、 我々は医者だぞ、正しい診断なしに兵隊が薬を配 れるかと言って私たちは断りましたけれども、ほ かのNGOはそうはいかない。反対するとやられ るかもしれないというおそれでもってそれを受け 入れる。副作用も分からない、何も分からないと いうことで、薬をばらまいて一日で過ぎ去ってし まう。これはごく一例でありますけれども、明ら かにこれはPRTの、いいPRTもあるんでしょ うけれども、私が目撃したPRTというのは、ほ ぼ米軍の活動を円滑にするための宣撫活動に本質 的に近いものだというふうに考えて間違いないと 思います。 だから、私たちがヘリコプター、米軍から襲撃 を受けたときも、PRTと密接な関係を持ってと いうふうに言いましたけれども、PRTと接触す ること自体が危険を招くということで、一切ペシ ャワール会としてはPRTとの接触を断っており ます。もちろん敵対するつもりはありませんけれ ども、巻き込まれるつもりもありません。 それから、マドラッサについて言いますと、こ れは日本人全体がイスラム社会についての認識が 薄いので分かりにくい点もあるかと思いますけれ ども、どだいこのイスラム神学校という訳し方が -8-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 おかしい。少なくともアフガニスタンにおきまし ては、各地域を束ねる中心地がこのマドラッサで ありまして、私たちの用水路の開通によりまして、 人口それまでわずか二、三万の地域が二十万人以 上に膨れ上がってくる。そうなりますと、その地 域を束ねる中心が必要になってくるわけでありま して、いろんな地域が、いろんな民族や部族が入 り乱れておりますので、アフガニスタンというの は雑炊状態。その異なった集団を束ねるのがイス ラム教であり、マドラッサであるわけですね。地 域の紛争も、普通金曜日に長老たちや村長さんた ちが集まって、そこで解決を図るということで、 必ずしも新聞、報道機関などで放送されておるよ うなタリバーンの温床だとか過激派の育成機関だ とかいうわけではありません。 これは私たちが率先して建てたというより、地 域の人々が要請しまして、空き地があったので、 これは何の空き地だというと、いや、マドラッサ の予定地だけれども、国連や外国NGOはマドラ ッサとモスクの建設だけは外してあるということ だった。じゃ我々ついでに建てましょうかと、建 物だけは建てましょうということで始めまして、 十二月までに完成予定であります。そうしますと、 一千名の学童とこの六百名を収容するモスクがで きまして、この二十数万人の人口を束ねる中心と なる予定であります。 なぜ我々がそれに手を付けるかといいますと、 農村共同体の秩序、これはマドラッサなしには完 成しないというのが私たちの基本的な考え方であ りまして、単に宗教勢力を敵視するのではなくて、 本当のイスラム教徒というのは決して人殺しをし てはいけないというのもイスラムの教えの中にあ ります。むしろ宗教者の平和的な気持ちに訴えか けまして、地域に平和をもたらそうということと 同時に、イスラム社会でこれだけ戦乱がありなが らストリートチルドレンが少ないのはなぜかとい いますと、これはマドラッサがこういった人々を 吸収してそこで育てるという貧しい学童に対する 教育機能も兼ねているわけでありまして、それに 着目して建設を開始した。 面白いのは、そのとき集まってきた長老たちが これで自由になったと叫んだ。それまでイスラム 教徒であること自身が罪悪であるかのように取ら れる。単にマドラッサで学んでいるということだ けで爆撃の対象にされて学童が何百名も死ぬとい う中で、外国のNGOがやったというのはこれは 画期的なことだということで、東部では非常に喜 ばれました。 そういうことでありまして、私たちは日本や欧 米人の偏見を超えまして、地域の人にとって何が 大切かという視点でこのマドラッサの建設を進め ているわけであります。 話がくどくなりましたけれども、そういう次第 でございます。 ○犬塚直史君私は、日本のかつては良かったイ メージ、広島、長崎は有名になったと。日露戦争 に勝ったというようなイメージがもう今や崩れつ つあると。しかし、しかし日本はまだそういう言 わば宗教的な確執からは無縁な立場であり得ると。 マドラッサの建設を始めとして日本なりの立場と いうのはあるんじゃないかと。別にほかと一緒に なって同じことをやらなくても日本なりの援助の 仕方があるんじゃないかと。私どもはそういうふ うに思っているわけであります。 そこで、我々が今討議をしていることの一つは、 いかにして今OEFとかPRTがアフガニスタン の地から出ていけるのかと。やっぱり人道活動を するための空間を維持するために軍事的な組織の プレゼンスが必要ということを認めたとして、で はどのような形でこれが造れるのかということに ついて、これはやはり七年前ですが、中村先生が おっしゃっていることをまた引用させていただき たいと思います。これは衆議院の参考人質疑のと きです。「これもまた言いにくいことでございま すけれども、日本の警察や自衛隊も含めまして、 はるかに現地は治安部隊の実戦を積んでおります。 これは、パキスタンの治安部隊の仕事でありまし て、外国軍隊が、言葉もわからないという中で、 -9-参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 とてもあのまねはできるものではない、」という ことをおっしゃっているんですね。 今、我々が一番民主党の法案で中心にしたのは、 治安構造分野改革といいまして、現地の警察ある いは軍あるいは司法というものをいかにして応援 していくかという視点での立法をしたわけですが、 この現地の治安部隊の外国の政府からの応援とい うことについて、中村参考人の御意見をいただき たいと思います。 ○参考人(中村哲君 お答えします。 外国の軍事面の援助は一切不要でございます。 具体的な例を挙げますと、これがすべてのアフ ガン全土に通用するかどうかは別といたしまして、 PMS、ペシャワール会のワーカーである伊藤君 が死亡した後、現地の治安当局と地元住民が話合 いをしまして地域治安委員会というのをつくり、 そこが我々を防衛するという形を取っておる。何 のことはない、これが伝統的なアフガニスタンの 治安体系でありまして、旧タリバン政権もそれに のっとってアフガニスタン全土を治めたという経 緯があります。 それを考えますと、治安問題というのは基本的 に警察の問題であって軍隊の問題ではないという ことが私たちの基本的な認識でありまして、物取 り強盗からあるいは武装集団の解決に至るまで、 これは地域長老会、地域共同体と密接にあります そういった治安委員会の設立によりまして、少な くともアフガニスタンの都市部は別といたしまし て、農村部ではそれが最も良好な形態でありまし て、陸上自衛隊の派遣は有害無益、有害無益とい う言葉が嫌ならば百害あって一利なしというのが 私たちの意見でありまして、要するに軍事面に関 与せず、そういった地域の自治体制に沿った形で の治安体制の確立、これは十分可能なことではな いかと思います。 ただし、これはアメリカのPRTあるいはNA TO軍とは無関係なところで日本独自で進めれば、 私はこの武装解除、武装解除プロジェクト、外務 省が行いました武装解除プロジェクトというのが ありましたが、案外これは十分希望が持てるので はないかというふうに思っております。 以上です。 ○犬塚直史君今おっしゃった警察の機能につい てもう少し伺います。 今警察が、内務省が大変な腐敗を抱えていて、 末端のアフガニスタン政府の警察官は麻薬取引に 自ら積極的に加担をしているというふうに聞いて おりますが、現場から御覧になっていかがでしょ うか。 ○参考人(中村哲君 ) これも伝えたかったこと の一つですけれども、日本で考えるような警察力、 すなわち中央集権的に警視庁と警察庁がありまし て、これが全国隅々まで統括して目を光らせると いう体制はアフガニスタンでは不可能。先ほど言 いましたように、アフガン農村においては成人男 子のすべてが兵員であります。したがって、地域 の伝統社会に沿った形の防衛というのはあり得る。 これは、これも是非言っておくべきでありますけ れども、農村地帯に行けば行くほど、すなわち日 本で危険地帯と呼ばれるところに行けば行くほど いわゆる昔ながらの伝統、これは良しあしは別と いたしまして非常に強固なものがある。客人と認 められれば自分の命を代えても守るというのが大 体のアフガン社会のおきてであります。 それを考えますと、私たちがそういった地域に 本当に役に立つということでもって入っていくな らば、地域の人たちが守ってくれる。もちろん伊 藤君の場合のケースもありますけれども、あれは、 詳しくは今日は申しませんけれども事故に近かっ た。そういった形で、合同治安委員会というのを 設置して、今のような形で私が守られているよう な形でその地域の治安を守るということは十分あ り得ます。 また、日本のいろんなプロジェクトを成すに当 たりましても、PRTやNATOとは無関係にそ れをすることができるというならば、住民挙げて 歓迎するであろうということは私ははっきり申し 上げておきたいと思います。 -10 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ○犬塚直史君日本独自の活動として中立性を持 って、しかも現地をよく理解をして、現地の宗教 を含めてこれを尊重する立場で支援をするのであ れば、現地挙げて応援をしてくれるだろうという 心強い御意見をいただきました。 そこで、少しさかのぼりまして、九・一一後の ボン合意というものがありました。この言わば停 戦合意、これからの復興をどうしようかという会 議に北部同盟の人たちは入ったけれどもタリバン が入らなかったと、これが一つ大きな障害であっ たと言われておりますが、参考人の御意見を伺い たいと思います。 ○参考人(中村哲君 このことについては私、 一般的なことしか言えませんけれども、北部同盟 もタリバーンも実は似たり寄ったりの内戦であっ たということですね。ただし、この北部同盟は少 数民族であった。少数民族が多数民族を支配する という変則的な形になって、あのときだれもがこ れは長続きしないと、少数者が多数派を支配はで きないだろうということでありましたが、それが 現実のものとなってきました。 実際には、カルザイ大統領を始めといたしまし てパシュトゥン、タリバーンというのはパシュト ゥン出身者が多かったわけですけれども、このパ シュトゥンの地域に開発を集中させたり、それを なだめるような政策が各国によって取られました けれども、まだまだ行政内部ではタリバーン全体 が冷や飯を食っているという状態。さらに、タリ バーンの構成民族でありますパシュトゥン民族は、 アフガニスタン北西辺境州の多数派を成しており ますパシュトゥン民族と一体でありまして、この ために非常にややこしいことになっておる。この 事態はそう長続きしないというのがこれは一致し た見方であります。 以上であります。 ○犬塚直史君先ほどおっしゃった、二千万人の パシュトゥン人を抹殺しない限りはこの作戦、軍 事作戦の成功はあり得ないだろうという趣旨のこ とを先ほどおっしゃいました。アフガニスタンの 南部、東部、そしていわゆるFATAという地域、 そしてパキスタンの北部、西部というところ一帯 にこのパシュトゥンの人たちが住んでいると。 そういったいわゆる国境をまたいでこの人たち が存在をしておるという中で、今我が党が出した この法案の中核を成すのが、実は抗争停止合意の 推進ということを言っているわけであります。こ れは、国境も実ははっきりしない、そして全国的 な停戦を命ずるような、言わば停戦を強制できる ような主体も存在しない中にあって、地域的に、 幾つでもいいから地域的に抗争停止合意というも のをつくっていこうじゃないかと。 その際に最も大事になるのは、日本が国として 停戦合意ができたならばこういう支援をしていく んだという一つの覚悟といいますか準備だと我々 は主張をしているんですが、参考人の御意見を伺 いたいと思います。 ○参考人(中村哲君 ) これは既に、おっしゃる ことは非常に真っ当なことでありまして、これは カルザイ政権、あの米軍に擁立されたカルザイ政 権、それからパキスタン側の方も同じ動きをして おりまして、新聞で御存じかと思いますけれども、 今もうこの戦争では事は解決しない、基本的に対 話路線でいかないと駄目だということが、アフガ ニスタン、パキスタン両国政府にとってはこれは 死活問題になりますから、非常な熱意でディスカ ッションといいますか対話が開始された直後でご ざいます。これは米軍もイギリスもそうでありま して、武力では勝たないという共通認識が広がり つつあるというのは皆さん御存じかと思います。 その中にありまして日本がどういった態度を取 るかと。これはやはり平和国家を自称する日本と いたしましては、おっしゃったとおりに、このま とめ役、調停役として振る舞うと。これはパキス タン、アフガニスタン共に対日感情はまだまだま しですから、十分力を発揮し得る政策ではないか と思います。ただし、これが米国やヨーロッパ諸 国の手先と思われるような動きを避けて、日本独 自の動きであるということを明確に打ち出すべき -11 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 だというふうに私は思います。 以上であります。 ○犬塚直史君これは今年になってお出しになっ た対日感情の動きという中村参考人のメールの一 節なんですが、少し引用さしていただきます。六 月になって日本軍、ジャパニーズトゥループ派遣 検討の報が伝えられるや身辺に危機を感ずるよう になった。日本が兵力を派遣すれば、我がペシャ ワール会は邦人ワーカーの生命を守るために活動 を一時停止する。これまで少なくともアフガン東 部で親日感情をつないできた糸が切れると、自衛 隊はもちろん邦人が攻撃にさらされようと。 これは、この国会にも実は報告書が提出された ばかりなんでありますけれども、そのように余り 知られていない現地視察がどのような形でそうや って現地に広がり、参考人の耳に入ったんでしょ うか。 ○参考人(中村哲君 これはパキスタンでかな り大々的に報道されました。その際に、我々自衛 隊と言っていますけれども、英字紙ではジャパニ ーズトゥループと書いてあった。パシュトゥー語 放送でもこれは報ぜられまして、私のところで働 いている職員は、言いにくいものですから顔で分 かるんですね、こういう放送があったが本当かと。 制服着た人がうろうろしているとかえって我々危 なくなるということを率直におっしゃったのを覚 えております。そういうことで知りました。 パキスタンのテレビ放送、それからアフガニス タンのラジオ放送、それからそれを聞いた職員が 心配して我々に述べたということでその記事を書 いたわけであります。 以上であります。 ○犬塚直史君済みません、JICAの力石参考 人、大変失礼しました。最後に伺いますが、この 六月の現地調査は現地のJICAにも調査団は来 たんでしょうか。 ○参考人(力石寿郎君 ) これは来なかったとい うことでございます。接触はなかったというふう に理解しております。 ○犬塚直史君最後に中村参考人に御意見を伺い ます。 日本が国家として政府としてこのアフガニスタ ンに対する支援、どのようなものを現地から期待 されますか。 ○参考人(中村哲君 ) まず、何をすべきかとい う性急な結論を出さず、大きな目でアフガニスタ ンの流れを見て、これが有効だという道を宣言す ること、すなわち何をすべきかと同時に何をして いけないかということを明確にするだけで大きな 方針が出される、対日感情の好転も見られるので はないかと思います。 今の対テロ戦争の破綻というのは、だれの目に も明らか。ただ、それを言うとみんなから責めら れるので、みんな黙っている。裸の王様。その中 にありまして、日本が独自に、先ほど申されまし た治安の回復も、米軍に寄らず、NATO軍に寄 らず、独自に地元に寄り添って、地元が納得する 形で治安の確立を回復しながら支援の道を探って いく。支援の道は明らかであります。 先ほどJICAの方もおっしゃられたように、 水さえあればいろんなことがアフガニスタンでで きる。このことについて力を入れるべきだという 宣言をし、そして、国際社会という、このマジッ クのような言葉に踊らされずに、日本独自の道を 見出す。過って改むるにはばかることなかれとい う言葉がありますけれども、誤りは誤りと認めて、 まだ間に合う。ここで議論を尽くして性急な結論 を出さず、しかし大局は大局として見据えて決定 していく、抽象的ですけれども、私はそれを望み たいと思います。 以上でございます。 ○犬塚直史君ありがとうございました。 以上です。 ○佐藤正久君自由民主党の佐藤正久です。 本日は、中村参考人そして力石参考人、本当に 御多用の中御出席ありがとうございました。 お二人の話を聞いて、やっぱり本当に現場の 方々はそれぞれの分野で一生懸命頑張っておられ -12 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 るということを、肌でというわけにはいきません けれども、私の経験なりにイメージをオーバーラ ップさせていただいたというところでございます。 ペシャワール会の方はやっぱりどちらかという と地方の、まあ田舎の方での支援というものを中 心にされて、JICAの方はどちらかというと主 要な大きな都市、カブールとかジャララバード、 あるいはマザリシャリフ、あるいはカンダハルと いうようなところでの支援というものを中心にや っているように拝聴いたしました。 そこで、最初に中村参考人の方にお伺いしたい んですけれども、今地図をお配りさせていただき ましたけれども、ペシャワール会の方々が活動を されている現在の州、これはどこの州でされてい るか、端的にお答え願いたいと思います。 ○参考人(中村哲君 これは、ニングラハル州 の北部、すなわちジャララバードという都市から、 クナール州というのがありますけれども、それの 州の境目に至るまでの農村地帯、それからジャラ ラバード南部、スピンガルという山脈があります けれども、ソルフロッド郡、アチン郡、ホギャニ 郡、チャプラハル郡、こういった山のふもとで、 これは水利事業ではなくて飲料水確保の事業を進 めておりまして、ニングラハル州のジャララバー ドを挟む南北だということでございます。 以上でございます。 ○佐藤正久君東部のニンガルハル州の方で行っ ているというふうに確認いたしました。 私の今までの経験からいっても、イラクといっ てもなかなかイラク人というふうに一くくりにす るのは非常に難しくて、実際にそれぞれ場所によ ってやはり宗派が違う、あるいは民族が違うと、 いろいろそれぞれ場所場所で違うというふうな感 じがいたします。アフガニスタンも当然多民族国 家でいろんな、当然、ペルシャ系のパシュトゥン 人とか、あるいはタジク人とかハザラ人とか、あ るいはトルコ系のウズベクあるいはトルクメンと か、もういろいろいらっしゃいます。 今日の中村参考人の話は、どちらかというと東 部のパシュトゥン人の人が多くいるところでの経 験というものを基にしてお話しされたということ でよろしいでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 そのとおりです。私が見聞きできる範囲という のは、パシュトゥン社会を中心とした農村部であ りますが、先ほどから訴えております水の需要、 これは北部、それからアフガン西部に共通したも のがあるということは事実でありまして、事実、 カブール市内の水自身が非常な欠乏状態に陥って いる。しかも地下水がどんどん下がっていくとい う状況を考えますと、東部だから東部だけで特殊 だという問題でもなかろうというふうに私は推定 しております。 以上でございます。 ○佐藤正久君私も海外に二度ほど、こういう P KOとかあるいは復興支援の方に、イラクと、あ るいはゴラン高原ありますし、シリアとレバノン の方で経験をさせていただいていましたが、私の これまでの経験からしますと、恐らく、パシュト ゥンを含め多くのアフガニスタンに住まれている 方々が日本に好意を持っているというのは、そう いう戦後復興とかあるいは長崎、広島、あるいは そういう日露戦争というものだけではなく、日本 は今まで非軍事の分野で、しかも地域とかあるい は民族とかそういうものに分け隔てなく支援をし てきたというところが一番大事な分野でないかな というふうに私は思っています。 よって、我々がサマワに行ったときも、日本の、 特に先輩の方々が、文民の先輩の方々が今まで培 ってこられた地域住民との信頼というものを非常 に大事にし、それを守り、できればそれを発展す る形で支援をしないといけないと、自立支援をし ないといけないと、これでなければ血の通った支 援はできないし、安全もままならないというふう に思いました。そこで、言わば政府もそうですけ れども、地域住民の立場で共に考え、共に決定し、 共に行うということをほかの軍隊とは違うやり方 でやらせてもらったと思っています。 -13 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 しかしながら、やはりそこには治安という部分 がどうしても考えなきゃいけないということはど この支援組織でも同じだと思います。PKOにつ いては、国連の第二代総長のハマーショルドさん が、PKOは軍人の仕事ではないけれども、軍人 でなければできない仕事だというふうなことを言 われました。恐らく復興支援の分野でも、やはり 国連のPKOと、あるいはそういうある程度の武 力集団が関与しなければ国づくりとかあるいはそ ういう再建というものができない時期とか場所も あるんだろうということでいろんなところに今展 開をしていると。昨年末に民主党の方々が提案さ れたテロ根絶法案という中でも、そういう発想の 下に自衛隊が活動するという場合もあるという前 提で自衛隊をアフガニスタン本土で民生支援を行 うということも踏まえた法案を出されたと思いま す。 それで、中村参考人にお伺いしますけれども、 そういう民主党の方々も一部賛同されておられる ように、自衛隊が治安維持ではなく民生支援とい う形で現地に入るということについて、どういう 要領であれば非常に現地の方々とマッチングする のか、絶対マッチングしないとお思いなのか、そ の辺りをお聞かせ願いたいと思います。 ○参考人(中村哲君 お答えします。 自衛隊派遣によって治安はかえって悪化すると いうことは断言したいと思います。これは、米軍、 NATO軍も治安改善ということを標榜いたしま してこの六年間活動を続けた結末が今だと。これ 以上日本が、軍服を着た自衛隊が中に入っていく と、これは日本国民にとってためにならないこと が起こるであろうというのは、私は予言者ではあ りませんけれども断言いたします。敵意が日本に 向いて、復興、せっかくのJICAの人々がこれ だけ危険な中で活動していることがかえって駄目 になっていくということは言えると思います。 してはならないということは、これは国連がし ようとアメリカがしようとNATOがしようと、 人殺しをしてはいけない、人殺し部隊を送っては いけない、軍隊と名前の付くものを送ってはいけ ない、これが復興のかなめの一つではないかと私 は信じております。そのことは変わりません。 ○佐藤正久君もう一度確認しますが、治安維持 任務ではなく、民主党さんが出された法案も、人 道復興支援という分野で、あるいは民生支援とい う分野での自衛隊の活動を一応考えているという ふうに私は理解しております。今言われた、治安 維持分野ではなく復興支援分野で自衛隊を運用す るということについてはいかがですか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 ならば、JICAを全部引き揚げて全部自衛隊 員を送ればいいことでありまして、それなら、そ れじゃないとできないというならば、麻生首相自 ら銃を握って前線に立ってもらいたい、その上で 考えてほしいと私は思います。 ○佐藤正久君冷静にちょっとお話ししたいんで すけれども、自衛隊が復興支援あるいは民生支援 で現地で行うということとJICAの方々を引き 揚げるということとどういうふうな関係があるん でしょうか。もう少し丁寧にお考えをお聞かせく ださい。 ○参考人(中村哲君 ) これは明らかであります。 自衛隊が復興支援に携わるというならば、現在、 復興支援で死力を尽くしておられるJICAの 方々の立場はどうなるのか。JICAの人々はた だの付録なのか。自衛隊が銃を捨てて現在のJI CAの仕事ができるのかということを考えますと、 自衛隊がしゃしゃり出てくるならJICAの支援 も要らないということであります。また、NGO も要らないという議論になってくるかと思います。 私が言いたいのは、軍隊と名の付くものを、日 本では軍隊とは呼びませんけれども、実質的にこ れは国際的には軍隊だと、軍隊と受け取られるも のを現地に送る必要が、あえて復興というならば あり得るのかと。治安という意味ならば、先ほど 民主党の方が御質問されたとおりでありまして、 自衛隊を送らなくとも治安を守る、日本人ワーカ ーを守るという方法は幾らも存在するわけであり -14 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ます。その道を探らずしていきなり自衛隊が復興 に出てくるのは、私はおかしい、自衛隊派遣は、 七年前と同じことを言いますけれども、有害無益 と私は強調したいと思います。 ○佐藤正久君私も国際貢献というのは、海外支 援イコール自衛隊という考えは持っておりません。 非軍事が、先ほど言いましたように、非軍事であ るのが一番いいわけで、実際そういう非軍事での 海外支援が主流だということは、今の日本の政府 の活動から見てもそれは明らかです。ただし、場 所とか地域で使い分けをした方がいいんではない かという部分があろうかと思っています。同じ地 域で自衛隊とJICAの方がやるという場合は、 今、中村参考人言われたような懸念もあるかもし れませんけれども、場合によっては、アフガニス タンでもいろんな地域がございます。そういう治 安の状況によっては、JICAの方々がされるよ うな復興支援を行う場所と、あるいは自衛隊とい うものを使いながら復興支援する場所と、使い分 けをしながら困っている人を助けるというやり方 も私はあろうかと思います。これについて、力石 参考人の方にお考えをお聞かせ願いたいと思いま す。 ○参考人(力石寿郎君 大変難しい御質問だと は思うんですね。自衛隊が来たら、先ほど中村参 考人がおっしゃったように、やはり印象としては 軍隊の印象を持たれますので、そうすると、今ま で民生支援中心にやってきた日本までがついに軍 隊を送ったかと、そういうようなとらえ方をされ てしまうおそれが多々あるというところは否めな いと思います。 その上で、それが可能かどうかというのは私の 立場では何とも申し上げられようがないので、確 たるお答えはできないんですけれども、一般的に は現地の武装勢力の人たちも事あるごとに声明を 出している、あるいは警告を出しているように、 外国の軍隊は全部出ていけと、外国人もすべて出 ていけということを繰り返し言っていることから 推察すれば、自衛隊が歓迎されざる存在に映るの は恐らく必定だろうというふうに思います。です から、使い分けができるかどうかというのは非常 に難しい判断だと思います。 ○佐藤正久君やはり、復興支援のときに治安を どういうふうに認識し、そういう情勢から自分の 身を守るかという部分が一つはポイントになり、 あるいは、一つは地元の方々にいろんな、おふろ とか食事とか無用な負担を掛けずに自分で全部面 倒を見れる、自己完結性の能力を持って支援をす るという部分が多分今回我々がサマワに派遣され た一つの要因ではなかったかなというふうに思い ます。 私たちがサマワに行ったときもあるいはゴラン 高原に行ったときも、彼らは同じようにやっぱり 言われました。おまえたちは客人だからおれたち が絶対守るんだと、何があっても命を懸けて守る と、部族の名誉に懸けて守るということは言われ るんですけれども、さはさりながらも、やはり自 分で自分の身を守るために、先ほど力石参考人が 言われたような情報収集というものはしっかり行 いながら、あるいは行動規制というものをやりな がら行わないといけないと。やはり全幅の信頼を 向こうに預けるという部分だけでは、身を守れる、 あるいは部下を守るということには非常に懸念を 私は有しております。 そこで、力石参考人にお伺いしますが、現地の 方で実際にいろんな活動をされております。その ときの治安対策の一つとして、PMCと言われる ような民間の警備会社とか、そういうものを実際 に使われておられるのかどうか、それについてお 答え願います。 ○参考人(力石寿郎君 ) 行く場所とかそのとき の状況によって警護を付ける場合がございます。 そのような民間のセキュリティーガード会社と契 約を結びまして、必要な場合に必要な出動をお願 いしているというのが現状でございます。 ○佐藤正久君やはり場所場所でそこは異なると、 私と同じ認識なんですけれども、住民と一緒に活 動するといっても、場合によっては一〇〇%安全 -15 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 確保というわけにはいきませんので、それなりに 自分たちで情報を集めて分析をして、必要に応じ てやはり何らかの手段を使って守ると。現地の治 安を維持するというのではなく、自分の身の安全 を守りながら復興支援を行うという部分がやっぱ り基本ではないかなと思います。 ちょっと観点を変えて、お二人に確認いたしま す。 仮に今ISAFとかいうものがなくなったら、 アフガニスタンの治安は改善すると思われますか。 力石参考人からお願いいたします。 ○参考人(力石寿郎君 これも非常に難しいお 話ですが、ISAFが一定の治安抑止力を発揮し ているというのは確かなことだと思います。です から、二つの見方がありまして、一つはISAF がいるからあれだけで済んでいるというような見 方と、ISAF、すなわち軍隊がいること自体が 治安を悪くしているという見方と両方可能なんじ ゃないかと思うんですね。 現地の人たちは、恐らくそのような多様な意見 を多分お持ちなんだと思うんです。ですから、一 枚岩で意見が一致しているということは多分ない ので、そこはISAFがいなければどうかという 推測はなかなか難しいと考えます。 ○参考人(中村哲君 私もほぼ類似の意見であ りまして、背に腹は代えられないということで、 米軍の協力者となる、あるいはISAFの傭兵と なるということが普通でありますけれども、一方、 先ほどJICAの方がおっしゃられましたように、 今まで平和だったところがISAFが進駐したが ために混乱状態が起きるというのも事実でありま して、これは国軍兵士、警察はもちろん国軍兵士 も含めてアンビバレンツといいますか、複雑な感 情でおると。いったん事があるときは国軍自身が 米軍に向かって発砲するであろうということは想 像に難くないわけであります。 それを考えますと、ISAFの存在が治安にど れだけ貢献しているのか。一方で悪くしながら、 一方では雇用機会を与えて安定させているという のも事実でありますが、全体的に見ると、じゃ、 ISAFが来なければどうだったのか。私が経験 したタリバン政権時代、皆さんがお嫌いになって おるタリバン政権時代は今の百倍は治安はましだ と。ともかく、外国軍が入ってきてから治安が悪 化したという事実はどうしようもない事実だとい うふうに、これはアフガン人のほとんどが認めて おるところであります。 外国軍に対する嫌悪、食えないのでやむを得ず 従っておるというのがもう現実でありまして、私 たちの作業現場、少なくとも下々から見た現場と いうのは、ほぼ一〇〇%が非常に反米主義的な傾 向が強いということはお伝えするに値すると思い ます。 以上です。 ○佐藤正久君いろんな意見がやっぱりあって、 多様性、背に腹は代えられないという部分もやっ ぱりあるのかなという部分を私も感じます。しか しながら、やはり治安の維持というのは非常に復 興支援を行う場合においての一つの前提要件にな りますので、それをどういう形で保っていくか。 そのために、警察あるいは国軍の育成というもの も、今アフガニスタンのカルザイ政権を支援する 形で国連の機関とかあるいは日本とかあるいはド イツ等が行っているわけですけれども、中村参考 人にお伺いいたします。 前の旧国軍兵士を武装解除、動員解除して社会 復帰させるDDRというものについて、これはイ ンターネットの記事で昔見たんですけれども、中 村参考人はどちらかというと批判的なコメントが やっぱり載っていたと思っています。計画倒れに 終わったというような趣旨だったと思いますけれ ども、今はDDRが取りあえずアフガニスタン政 府の意向としては終了し、そして非合法の武装組 織の今武装解除、社会復帰の方をやっていると、 DIAGというふうに呼んでいるようですけれど も、これを行っていると。このDDR、DIAG についての中村参考人の率直な評価をお聞かせく ださい。 -16 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ○参考人(中村哲君 お答えします。 DDR自身は、私はこれは動機は非常にいいと いうふうに評価いたします。日本は、そういった 意味で、しかも、たとえ結果がどうなろうと、あ れができたのは日本が平和国家だというイメージ を背景にしてできたわけでありまして、私はそれ をやった人を悪く言おうとは思いません。ただ、 その結末が、結局、今の悪循環にのみ込まれて無 駄に終わることがあるんじゃないかということを 私は申し上げたわけでありまして、その努力自体 は率直に大いに評価したいというふうに思ってお ります。 以上です。 ○佐藤正久君同じ質問を力石参考人にもお伺い したいと思います。 DDR、DIAGに対する評価をお聞かせくだ さい。 ○参考人(力石寿郎君 DDRにつきましては、 私どもJICAの中ではあれは成功事例だったと いうふうに評価しております。 DIAGにつきましては、中村さんがおっしゃ ったように、状況が良ければ通常は非常に効果を 上げる手法だと思います。実際、似たような手法 で過去、例えばカンボジアなどで日本政府が行っ たいわゆるガンフリービレッジをつくっていって 武器を全部供出させて、その武器をサレンダーし た村には開発の見返りをちゃんとやっていくとい うことで、それを一村ずつ攻めていくというか実 施していってかなりその地域の潜在的な治安が良 くなったという成功例もあります。 ですけれども、アフガンについては、今のよう な治安の悪化がありますと、逆に武器を持ってい る農民あるいは市民がそれを放したくないという、 そういう精神的な状況に追い込まれますものです から、果たして武装解除が効率的にできるかとい うのはなかなか難しいかなというのが私の印象で ございます。 ○佐藤正久君やはり、そういう今治安を改善す る一つのやり方として警察あるいは国軍の育成と 同時にDDR、DIAGをやっているわけですけ れども、そういう中でもそれが過渡的であればや はり、もう一回言いますけれども、自分の身を、 あるいは自分のグループを自分で守るためにいろ んなことを、先ほど民間の警備会社を使うとかい ろいろ言われましたけれども、いろんなことをや るんだろうというように思います。そのためには やっぱり情報収集・分析というのが一つの基礎に なると思います。 そこで、中村参考人にお伺いいたします。 今どういう形でそういう治安情報というものを 吸い上げて、それを自分のスタッフの方に伝えて いるのか。やり方がもしもここで答えられるんで あれば答えてください。お願いします。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 これは皆さんに言えないこともあります。どう いうことかといいますと、これは先ほど、アフガ ン農村の性質からして彼らの、彼ら自身の秘密に していることは外部に漏らさないという約束の下 に進められることもありますし、例えばパキスタ ン側でこういう動きがあってこっちに影響がある だろうという情報、一方は意図的にカブール側か ら流される情報、で、情報源はどこなのかという ことを知って、ああ、ここだったらいつもこうい う情報を流しているなということで大体の推測を 付ける。それから地理関係。どこの地域にどうい う部族が住んでいて、どういう考えをして、どこ とどこの部族が闘争関係にあるかと。これも把握 しておかないと、とばっちりがこっちに来るとい うこともありまして。 先ほど言いましたように、私たちが守り得る大 っぴらな手段と申しますのは、地域住民と治安当 局が一体になって治安委員会を設置して、そこが 我々を客人として守るという形態。これは実はア フガン農村社会における普通の形態でありまして、 我々はそれによって守られておる。それは武器を 持たない場合もありますし、場合によっては武器 を携行するという場合もあるということなんです ね。それによって少なくとも私自身の身は現在守 -17 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 られておるというのが実情であります。 ○佐藤正久君当然細部は言えないと思います。 ただ、そういう情報は頻繁に入手をし、分析をし、 それを活用しているということだと思います。 今年の六月から八月のナンガルハル州における テロも大体毎月二十件を超えているというふうに 聞いています。 八月に非常に悲しい事件があったわけですけれ ども、八月においても結構今までよりも治安が危 なく、状況が荒れているというものはそういうど こかのルートから中村代表の方には入っていたと いうふうな認識でよろしいでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ええ。私たちが予測して いたのは、四月ごろからだんだん悪くなってきて、 恐らく今年の冬、もう五百万人の追い詰められた 飢えた人々は黙っていないだろうと。それまでに いろんな、単に政治的な動きだけではなくて物取 り強盗が増えるだろうから、徐々に邦人を帰すべ きだというのが私の判断でありまして、それを実 施しておるやさきでありました。 以上です。 ○佐藤正久君どうもありがとうございました。 今後ともしっかりと安全というものを確保しな がら、住民の目線に立った活動を、あるいは本当 に困っている人への活動をJICAさん、そして ペシャワール会の皆さんにはやっていただきたい と思います。 以上で終わります。ありがとうございます。 ○浜田昌良君公明党の浜田昌良でございます。 本日は、中村参考人また力石参考人、お忙しい 中御出席を賜りましてありがとうございます。特 に中村参考人には非常に遠方といいますか厳しい 中で農村開発またかんがい、水の開発をされたこ とについては敬意を表したいと思います。 中村参考人のいろんな今までの講演された内容 等を見させていただいたんですが、ちょっとああ そうなのかなと思ったのは、例えば政府の無償資 金協力とかJICAのとか、そういう外部資金と の連携を余り何かされていないような感じがした んですが、特に、そういう資金面で国際機関であ ったり日本の政府であったり、そういうものを使 うと何か使いにくいというようなところが何かあ るんでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 実際には、我々は一〇〇%自己資金だと言って おりますけれども、過去、外務省無償資金ですか、 大使館を通じて行われる、によって車両の供与を 受けたこともありますし、これは公的資金とは言 えませんけれども、郵便局ボランティア基金、こ れが予算の四分の一を占めていたこともあります。 現在、私たちの資金そのものが郵便局ボランティ ア基金よりも増えてきましたので、やはり郵便局 としてはより少ないところにこの恩恵を及ぼそう ということで今のところ一〇〇%回されておりま す。 肝心の御質問の答えですけれども、これは公的 資金を受けますと非常に動きにくい面も出てきま す。それはもちろん悪いことをする団体がおるか ら厳しくするんでしょうけれども、余りに規制が 厳しくて運用がしにくい。例えば組織でもらいま すと非常に厳密な会計報告をしなくちゃいけない ので、そのためにまた一人雇わなくちゃいけない。 そのために組織を守るのが主体になって肝心の事 業が、まあ私たちの場合、ほかのところ全部とは 言いませんけれども、ついそういう傾向になりが ちであるということで私たちは今すべて自己資金。 例えば年度予算にはないものを必要だからすぐ やろうと、こういう決定が速やかにできるという こと、それから募金者というかお金をくれる人を 喜ばすような宣伝をしなくていいということ、こ れが非常なメリットでありまして、お金がある間 は自分たちでやって、お金がなかったら政府に頭 を下げてお金をもらおうかなというふうに考えて おります。 ○浜田昌良君ありがとうございました。 アフガニスタンで長年の経験を持っておられま して、その経験は何物にも代え難いものだと思い ます。そういう意味では、日本政府のいろいろな -18 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 資金が中村さんの団体にとっても使いやすいよう な形になることを我々は政府に働きかけていきた いと思っております。 逆に、JICAの力石参考人にお聞きしたいん ですが、そういうNGOとの連携、現地ではどの ような形で取られているのか、お聞きしたいと思 います。 ○参考人(力石寿郎君 数は限られております けれども、数件、NGOとの連携を組んでやって いる事業がございます。 ○浜田昌良君分かりました。 他機関との連携についてはこれぐらいにしまし て、次の話に移りたいと思いますが、WHO、世 界保健機構がこの二〇〇八年に発表した数字なん ですが、アフガニスタンで毎年一万五千人の方々 が命を失っていると、こういうものがあるんです が、この原因は何だと思われるでしょうか。中村 参考人、力石参考人にお聞きしたいと思います。 ○参考人(中村哲君 お答えします。 WHOですから恐らく保健関係、恐らく病死で しょうけれども、たった一万五千人では、これは 私の印象ですけれども、一万五千人ではないとい うことは確実だと思います。 私の東部で見る限りのことで、これは北部、カ ーブルのことよく知りませんけれども、犠牲者の 大半は子供の腸管感染症、まあ下痢ですね、下痢、 それから腸チフス、肝炎などの腸管感染症による ものがほとんどであります。先ほども申しました けれども、くどいようですけれども、私たち医療 団体が清潔な水と食べ物といって頑張っておるの はそういう理由によることであります。ほとんど は子供の下痢による死亡者が圧倒的多数だという ことが言えると思います。 ○浜田昌良君力石参考人、いかがでしょうか。 ○参考人(力石寿郎君 ) やはり基本的なベーシ ック・ヒューマン・ニーズのインフラが整備され ておらない、十分なきれいな飲み水が確保されな いということがあるのと同時に、地方におきまし ては医療施設が非常に足りないと。非常に遠隔の 地から病人を運んでこなくちゃいけないとか、あ るいは妊産婦の方が定期健診をなかなか行えない とか様々な理由で乳幼児、妊産婦死亡率、それが 高いのと、また、我々が今取り組んでおります結 核でございますけれども、これは相当いい成果を 出していると思います。 ただ、やはりそういう医療に対するアクセシビ リティーといいますか、特に農村地帯では非常に 悪うございますので、その上に更に、中村参考人 が言われたように、きれいな飲み水がないとか、 まだまだ民生の分野でやるべきことはたくさんあ るんじゃないかというふうに考えております。 ○浜田昌良君ありがとうございました。 今、力石参考人が触れられました結核なんです ね。これはWHOが今年出した写真集、結核が何 千ものアフガニスタンの命を引き裂きつつあると、 今がそれを直すときだというこの写真集がこれ出 たんです。(資料提示)少し紹介させていただき ますけれども、この結核という問題がかなり成果 を上げられていると力石参考人はおっしゃったん ですけれども、実はこの写真集によればまだまだ であるというような状況でございまして、一例紹 介されているのが女性、女の子なんですが、この 方なんですね。この方はファジリアさんといって、 二〇〇七年五月十九日に病院に担ぎ込まれたんで すが、二年間間違った情報で結核と診断されなく て、最終的には脊椎結核と診断されたという状況 でございます。 しかし、こういう状況は彼女だけじゃなくて、 毎年結核で今言いましたように一万五千人の方が 亡くなっていて、かつそのうちの一万三千人が女 性なんですね。しかも働き盛りの女性であります。 そういう意味では非常に働き盛りということも含 めてこの問題の深刻さを感じるんですが、しかも、 そういう人たちが実は、先ほど貧困層の話もござ いましたですけれども、不法占拠された住宅があ ります。そういう住宅の中で、閉ざされたドアの 中で閉じ込められているという状況でございます。 そういう意味で、アフガニスタンの日本の復興 -19 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 というのは、中村参考人が取り組まれておられま す食料の面と医療の面、この二つをうまく両輪の ように進めていく必要があると思うんですが、ま ず少し力石参考人に、結核面で少しいい成果も上 げているという話もありましたが、今までJIC Aとして取り組まれてきた内容についてお話しい ただきたいと思います。 ○参考人(力石寿郎君 結核のプロジェクトは、 これまで金額、計画額にして七・八億円程度を掛 けまして、日本の専門家延べ二十九名派遣をして おります。今、現在ではカブールに四名派遣中で ございます。専門家以外には、保健分野の相手側 のカウンターパートの人たちですね、これの研修、 日本に呼んで研修をするわけですが、これがこれ まで合計百七十六名研修に来ております。 私どもが現地で展開しているやり方は、いわゆ るDOTSという、これは専門用語になりますが、 県の結核担当者に、そのDOTSをどうやって行 っていくかということを教えて、その先は、日本 の専門家はなかなか治安の問題もあって奥地まで には行けないんですが、そこで現地で活動してい る地元NGO、その人たちに託してDOTSの薬 配布、それから薬を各患者に飲ませるという、そ ういう活動を根気よく続けてきております。 そういうことで、既に二〇〇二年からこのプロ ジェクトを始めておりますので、もう六年以上た つわけでございまして、この成果といいますのは、 まずDOTS手法が定着してきたということで、 ほかの国の例でも類推できるんですが、DOTS が定着しますと、あるところまでは新しい患者の 発見で人数が増えていくんですけれども、あると ころからずっと下がっていくというのを我々経験 的に分かっておりますので、まずひたすらDOT Sの普及をやるというところに力を入れておりま す。 ○浜田昌良君そのDOTS、直接監視法の普及 というのは重要だと思っています。また、現地で は磯野光夫さんが頑張っておられるというふうに も聞いております。そういう意味で、引き続き、 このプロジェクトは、今日の資料によると二〇〇 九年までとなっておりますけれども、引き続き取 り組む課題だと思っておりますので、力を入れて いただきたいと思います。 中村代表にお聞きしたいのは、じゃ、カブール の話だとそういう状況なんですけれども、ジャラ ラバードなんかではこういう計画の問題はどうい うふうになっているのか、どういうふうに、また 逆に、代表はお医者さんでもありますので、取り 組んでおられるのか、お聞きしたいと思います。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 これは、カーブルのような大都市と農村地域で は随分事情が違うということは御理解いただきた いと思います。 というのは、単に外国人が入れないというだけ ではなくて、先ほどおっしゃいましたようにアク セスが非常に悪い。私たちも、ハンセン病の根絶 計画である程度の事情分かりますけれども、定期 投薬というのが非常に難しい。これは各診療所の あるところはまだましであります。アフガニスタ ンの全土で診療所のあるところを探す方がまだ早 い。ほとんどの地域が無医地区であります。こう いった状況の中で、一つのトライアルとしてある 地域を選んでやるという、まだ途上段階だという ことを意識してやれば、これは徐々に徐々に、何 年も何十年も掛けて私は実現できるものではない かというふうに思っております。 そういうことでありまして、すぐに何でも実現 せよというのは余りに性急過ぎるというふうに私 は思います。これはほかの分野でも同じでござい ます。 以上でございます。 ○浜田昌良君ありがとうございます。 確かにすぐに成果は出にくいと思いますけれど も、この結核の分野は、日本は戦後毎年十六万人 ぐらいの方が亡くなっていたのが今はもう数千人 以下になっておりますから、かなり保健衛生の分 野で成果を上げた分野だと思っております。そう いう知見を是非アフガニスタンでも使っていただ -20 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 きたいなと。 調べましたら、日本の結核予防会の結核研究所 で、アフガニスタンの専門家で五十六名の方を日 本で研修して現地に送り戻しているということが 分かっております。そういう方々としっかり現地 で連携していただいて、特に中村代表はお医者さ んでもありますので、このカブールだけではなく て、そういう村落における結核対策というのにつ いて是非お力をお貸しいただきたいと思います。 本件については、日本の厚生労働省、外務省、 そのほかJICA、またWHO、またNPO法人 が連携しまして、ストップ結核パートナーシップ というもののアクションプランを作っていまして、 日本の経験と資金と技術によって結核患者、毎年 百六十万人死んでいますけれども、十六万人削減 していこうということを提案したものが今年の秋 出ました。そういう意味では、是非アフガニスタ ンにおいても、世界の中では十七番目に患者数が 多い国であります。死亡者も多い国でありますの で、お力をお借りしたいと思います。 それでは、次の話に移りたいと思いますが、先 ほど少し話も出ましたが、ペシャワール会では伊 藤さんの残念なことがあったわけでございますけ れども、なぜあそこまで村民に慕われていて、ま た安全にも十分配慮されていて、それでああいう ことが起きるんだろうと。また、ああいうことに よって今後の伊藤さんの死を無にしないようにど う改善していけばいいのかという点について、中 村代表の御意見を賜りたいと思います。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 これは二つありまして、一つは先ほどから繰り 返されております組織あるいは個人レベルでの防 御体制、それからもう一つは治安悪化を促す要因 の退治、この二つが組み合わさないと、これだけ ということはないわけでありまして、幾ら日本が 治安がいいからといって無防備でおれば新宿で刺 されたりするわけでありまして、私たちは、個人 的な防御につきましてはいろいろ対策を講じてき ましたけれども、その具体的な方法については先 ほど申し上げたとおりでございます。個人自身が 気を付けなくちゃいけない。つい日本の感覚でぶ らぶらっと出てやられてしまうということは是非 避けたいと思いますけれども、それが不幸にして 起きてしまったということですね。 私が申し上げたいのは、以前はそんなことが考 えられなかったのになぜ起きたのかということを 考えますと、これは外国軍の干渉、米軍及びNA TO軍のアフガニスタンへの軍事介入、あるいは パキスタンの軍事介入と無縁ではなかろうと思い ます。その背景について責任を持つのが日本国家 の政治家の責任ではないかというふうに私は思い ます。何もこれで国を責めようとは思わない、 我々が無防備だったとしか言いようがない。しか し、我々としては最善の力を尽くしたつもりであ ります。 その背景についてもっと詳しく突っ込んだ議論 があっていいのではないか。あのとき報道された のは、中村代表は治安の認識の甘さを認めたとい う報道が大々的にされた。これは誤報でありまし て、私がはっきりバンコックで述べたのは、私を 含め報道機関それからいろんな日本の機関、日本 国民すべてがこういった認識が甘かったというこ とが、中村代表が自分の治安の認識の甘さを認め たということで矮小化されてしまったということ に私はついでながら不満を述べておきたいと思い ます。 ○浜田昌良君ありがとうございます。 まさに個人としてできる対策、個人ではできな い対策、両方あるんだと思います。 この後者の関連で少しお聞きしたいと思うんで すが、先ほど御説明の中で、いわゆる空爆がなさ れていると、爆弾が空から降ってくるという、こ ういう表現もあったんですが、ジャララバードの どちらかで中村さんが何かそれを経験された、見 られたことはあるでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) これは私は落ちてくると ころは見たことはありませんけれども、二〇〇一 年以後ですね、ソ連軍時代にはありました。これ -21 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 は物すごい、最近の高性能火薬の威力というのは 物すごいものでありまして、村全体が真っ黒にな るように見える。我々、落とす側の映像しか見ま せんけれども、落とされる側の映像というのはほ とんどない。死んじゃうんですね。 そういうことを考えますと、もう少し死ぬ人に、 その空爆によって死んでいく人たちの命に対する 配慮があってもよかったんじゃないかと。まあ的 外れかもしれませんが、私は思います。 カブールで私たち二十名、死ぬのを覚悟で食料 配給をしたことがあります。まともに爆弾の下に おったので、それは十分私としては理解しておる つもりであります。 ○浜田昌良君今、ソ連の侵攻のときには実際に 体験されたという生々しいお答えをいただいたん ですが、ここで一点ちょっと中村代表に、少しこ れ、認識が我々と違うなという点があるんです。 何かといいますと、先ほどの御発言の中で、米 国の軍事活動に協力していると知れ渡ってしまう と身の不安が感じるという話がございました。今 この国会で審議をしている新補給支援法、前のテ ロ特措法は廃案になりましたので、期限切れにな りましたので、この新しい法律の場合はOEFと いう陸上作戦とは完全に切れた関係になっている んですね。司令部が違いまして、そういった陸上 と海上阻止活動は。よって、この海上阻止活動は、 現に給油している日本というのは空爆を支援して いるわけでは全くないんです。そこは是非、多分 現地では中村代表の影響力って大きいと思います ので、それは前の法律とは違って、日本はあくま でインド洋上で不審船があるとそれを無線照会を して、旗国の同意の下でチェックをするというも のに給油をしているのでありまして、航空母艦と かそういうものじゃないということを是非御理解 賜りたいと思いますが、それはよろしいでしょう か。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 それは、私に通じても現地の人には通じないと いうこと。それから、この給油対象のほとんどで ありますパキスタンの軍隊、これが今大々的にパ キスタン側から空爆しておるわけでありまして、 おっしゃられることは現地に対しては説得力はな いと思います。たとえ一%であろうと二%であろ うと米軍に補給しているという事実、このことは 現地に対して非常にアレルギーと言えるほどの反 応を起こすということは確実だということは申し 上げておきたいと思います。 ○浜田昌良君米軍に支援しているという意味で は、別に日本の米軍基地もありまして、そういう 関係にもあるわけですが、あくまでも日本として やっているものは、空爆をしたり、また掃討作戦 をするような部隊への給油ではないということは、 是非中村代表自身も御理解いただいて、現地の方 の誤解が解けるように御協力賜りたいと思います し、先ほど国際社会という、国際のとらえ方が違 うんじゃないかという御意見もいただきました。 いわゆる国際社会にアフガン人が入ってないんじ ゃないかという話かもしれませんが、我々自身も 国際社会って別にアメリカの声ではないと思って います。我々としては、例えば国際連合、国連で、 アフガニスタンに対して各国ができる範囲で協力 をしろと、復興に協力をしろという要請もありま したし、また日本が行っているこの海上阻止活動 に対しても高い評価もいただいていると。そうい う意味では、国際社会というのは一つには国連の 中で評価をされているという位置付けを御認識い ただきたいんですが、この点についてはいかがで しょうか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 それは内輪の議論でありまして、アフガニスタ ン、パキスタンではそういう議論は通じないとい うことですね。そのことだけはお伝えしたいと思 います。あれはOEF、内部での軍事活動、一言 で言えばそういうことでありますので、それが、 その油がどこの国にどれぐらい行って空爆には使 われてないと言っても、現地の人にはすっきり受 け入れられない事実があるということは是非伝え たいと思います。 -22 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ○浜田昌良君そういうふうに考えますと、逆に 言うと、ISAFなりOEFというものに対して 協力している国が四十数か国あるわけですね。欧 米諸国だけではなくて、例えばアジアではモンゴ ル、パキスタン、トルコという国があるんですが、 こういう国に対しても現地の方々は憎悪の念を持 っておられると考えてよろしいんでしょうか。 ○参考人(中村哲君 面白くない感じは持って いるでしょうね。しかも、参加国の大半は、参加 しないとテロリストの味方と思われるので、嫌々 ジェスチャーで参加しているというところがほと んどであるということは知っておいてもいいんじ ゃないかと思います。 ○浜田昌良君時間なので最後の質問にさせてい ただこうと思うんですが、先ほど自民党の佐藤委 員からもいろんな御質問ございました。佐藤委員 はイラクのサマワで、現地で現地の住民の方に給 水活動をされたり復興活動をされたりしたわけで すね。サマワにおいては、日本の陸上自衛隊が現 地の方々からも評価をされ、学校も補修をし、そ ういううまい関係ができたんですが、この今、中 村代表の御発言だと、日本の自衛隊はそういう関 係はアフガニスタンでは築けないよというような お話なんですが、そのイラクでできてアフガニス タンではできないというのはどの辺が違うと考え ればよろしいんでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 それは私もよく分かりません。 イラクとアフガニスタンでは、恐らくは、社会 構造の違い、文化の違い、いろいろあると思いま すけれども、アフガニスタンでは非戦闘地帯は存 在しない。あっても、部隊が駐留すればそこが戦 闘地区になる。例えば、我々の水路沿いに自衛隊 があの大事な仕事を守らなければと言って来れば、 我々としては大変迷惑な話だと。恐らく水路の作 業員五百名は全部武装して自衛隊に反抗するであ りましょう。 そういうことを考えますと、私は、おっしゃる 質問の答えにはなりませんけれども、その辺はイ ラクとは随分違うんだと、しかも、自衛隊が出て くる必然性はないということははっきり申し上げ たいと思います。 ○浜田昌良君念のために言っておきますけれど も、私も自衛隊は行くべきと思っていませんので、 その前提で聞いておりますので、その点は確認さ せていただきたいと思います。 早速、今日はいろんな御所見をいただきました ので、我々、日本としてできる援助又はいろんな 支援の在り方について参考にさせていただきたい と思います。本日はありがとうございました。 終わります。 ○井上哲士君日本共産党の井上哲士です。 今日は中村参考人、力石参考人、御多忙の中、 また、とりわけ中村参考人は遠路、本当にありが とうございます。現地からではないと聞けない貴 重な本当にお話を聞かせていただきました。 〔委員長退席、理事浅尾慶一郎君着席〕 まず、中村参考人に総括的にお聞きをするんで すが、いわゆる対テロ戦争として七年間、始まっ てからたちました。軍事力ではテロはなくならな いというのが、私は実感として持っておるんです が、この点、中村参考人、現地におられての実感 はいかがでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 軍事力ではおっしゃるとおり絶対になくなりま せん。なくならないどころか、ますます拡大して いくであろうと。今までの過去六年間の経過を、 それから、ソ連軍がかつて、もう随分古い話にな りますけれども、ソ連軍の駐留の結果を見ても、 これは火を見るよりも明らかだと。肝心の米軍自 体が今、対話路線に切り替えつつあるということ は、恐らく撤退もそう遠いことではないのではな いかというふうに私は思います。 以上です。 ○井上哲士君先ほどの質問にかかわってなんで すが、現在審議しておりますこの給油支援活動で、 日本が給油するのはあくまでもOEF―MIOに 限るんだと、OEFとは違うんだということを政 -23 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 府は再三説明をするんですが、それは現地ではな かなか通用しないという先ほどお答えがありまし た。 実際上、そのOEFとOEF―MIOというも のは、現地では区別をされて理解をされているの か、その辺はどういうふうに現地の皆さんはお感 じになっているのか、お願いしたいと思います。 ○参考人(中村哲君 これは、OEFと同一視 されていると思います。この誤解を解くのは容易 ではない。実際、油だけではなくていろんな米軍 施設を日本の援助で建てられている。ジャララバ ード市内でも皆知っている。これは米軍施設だけ れども、日本の援助によって建てられたというこ とは堂々と皆言っている。そういうことを考えま すと、これを分けて考えるというのは、日本の中 のコップの中の出来事でありまして、普通は皆そ う考えないということは知っておくべきかと思い ます。 ○井上哲士君先ほどイラクとの違いというお話 もあったんですが、やはりアフガニスタンでソ連 のあの占領をはね返したことにあるように、長期 にわたって他国軍が駐留をするということに対す る民族としての誇りを傷つけられるというんでし ょうか、そういうこともあろうかと思うんですが、 その辺のその外国軍が駐留していることに対する 国民的感情はどういうことでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) これはカルザイ政権を含 めまして、一〇〇%とは言いませんけれども、ほ とんどの人は反米的であるということは私は断言 したいと思います。 ただ、それを口に出すと、反米主義者、彼らは 決して反米主義者なんではなくて、外国からやら れるのが嫌いなんですね。しかし、それを言うと、 アルカイダに通じているだとか反米主義者だとか いう烙印を押されて過激派の味方だということを 言われるので、それを恐れて黙っているだけなん です。内心アフガン人のほとんどはほぼ反米的で あります。これは私がいろんな人と接して、実は ということから推測できることで、確信を持って 申し上げたいと思います。 ○井上哲士君今のこの対テロ戦争というのは、 タリバン政権がアルカイダをかくまったというこ とを理由に始まったわけですね。そこで報復戦争 が始まり、そしてタリバン自体がもうテロ組織な んだと、テロ団体なんだと、だから悪だという図 式でずっと七年間続いてきたわけですね。 しかしながら、今いろんなお話がありますよう に、国内においてはタリバンの支配というものが いろいろ復活をし、そして地方の行政などにはも う入ってきているということもあります。それか ら、様々な形でのタリバンとの和解というものが 国内でも進んでおりますし、国際的にもそういう 声が上がっております。 例えば、オマル師もその和解の相手に加えるの かどうかとか、その辺のいろんな議論もあるよう なんですが、そうなりますと、そもそもタリバン とは何なのかということがあると思うんですね。 どうもここがはっきりしない議論がずっと私は政 府の答弁聞いていてもあるような気がするんです が、そもそもタリバンとは何であり、今どういう 状況であり、そしてその和解の対話というのはど ういう形で今進んでいるのか、お教えいただきた いと思います。 ○参考人(中村哲君 ) タリバーンについては、 これは随分ややこしい説明が必要になります。タ リバーンというのは、元々神学生という意味で、 正義感に燃えたイスラム教のマドラッサで学ぶ学 生たちがカンダハールで軍閥、悪徳軍閥を殺害し て発展した組織ですけれども、実際これを政治的 に利用したのはアメリカのCIA、それからパキ スタンの諜報機関、それから外国の石油資本、こ ういうのがタリバーンを支援してできたというい きさつがありますけれども、単にそれだけでタリ バーンが国土の九割を占めたとは、速やかに占領 できたとは思えない。そこには何らかタリバーン を受け入れる素地があったわけでありまして、タ リバーンの基本的な方針というのはパシュトゥー ン、主にはパシュトゥーンに共通する、アフガン -24 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 人に共通するおきてを基にして政治交渉を重ねて 国家を統一したといういきさつがありまして、そ の辺がなかなか理解しにくうございます。 現在おりますタリバーン、いろんな人がタリバ ーン名のってやっておりますけれども、どれが旧 政権のタリバーンなのか新しく名のってやってい るのかよく分からないという現実。それから、決 定的に違うのは、こういった土着の国粋主義者と アルカイダと体質が随分違う。実はタリバーンの 上層部の過激な意見等を持つ人々は、パンジャー ブ、アラブそれからウズベキスタン、タジキスタ ンの都市中間層、ちょうど日本でいろんな新興宗 教が出てきましたように都市中間層からアフガニ スタンに流れてくるというのが現実でありまして、 国際主義のアルカイダと土着主義のタリバーンと では随分性質が違うということは知っておいても いいのではないかと思います。 ニューヨーク・テロ事件に際しましても、あの 中にアフガン人は一人もいなかった。あのアフガ ン人の戦闘員、あの田舎っぺのおじさんたちがラ イフルを担いでニューヨークに攻めていくなんと いうことはとても考えられない。コンピューター を駆使し、そして流暢な英語をしゃべり航空機を 乗っ取りということは、タリバーンの中核部隊に は絶対にできない。 そういうことを考えますと、私たちはもっとタ リバーン、アルカイダ対正義の味方米国という図 式をもう一度研究し直す必要があるんじゃないか と、かように思っております。答えになりません けれども、私はそう思います。 ○井上哲士君タリバン政権が崩壊をし、その後 国際的な人道復興支援が行われました。政府答弁 などでも、例えばGDPの成長率はこの間年平均 一〇%だとか、初等教育の就学率が二割弱から九 割弱まで向上したとか、そういういろんな指標が 挙げられて、進んでいるんだというお話があるん ですね。しかし、そうであるならばもっとカルザ イ政権の求心力というのが高まり、タリバンから の離反というのが起こると思うんですが、実際に は復活ということになり、今の政権が実効支配で きているのは首都とその周辺にとどまると、こう いう指摘もあるわけですね。 これは、力石参考人も、それぞれお聞きしたい んですが、こういうふうに、結局現政権への求心 力がむしろ下がっているというこの実態について の理由について、それぞれどうお考えでしょうか。 ○理事(浅尾慶一郎君 ) どなたからお聞きにな られますか。 ○井上哲士君じゃ、力石参考人。 ○参考人(力石寿郎君 ) 大変難しいお話ですが、 カルザイ政権そのものは、国際社会が協力して、 先ほど御説明したボン合意に基づいたプロセスで 民主的に誕生した政権でありますから、それを支 援した諸国、日本を含めて、これを支えて安定し た国家建設の基をつくりたいと願っていたのはど この国も同じだと思うんです。 〔理事浅尾慶一郎君退席、委員長着席〕 しかし他方、国内治安がいつまでも収まらない という状況で、やはりあと、もちろん麻薬の問題 ですとか汚職の問題とかも取りざたされている中 で、余りにも長い時間国の中が平定できなかった ということで、多くの人たちが今の政権に対して 落胆しているのが一つの原因ではないかなという ふうには思います。 ○参考人(中村哲君 ) ちょっと質問、もう一度 お願いします。 ○井上哲士君いわゆる国際的な支援で経済指標 などは上がっていると報告されているんですが、 にもかかわらずカルザイ政権への国民的求心力が 逆に低下をしているという実態があるわけですが、 その理由をどうお考えかと。 ○参考人(中村哲君 ) お答えします。 一つは、人々が期待するほどの生活向上がなか ったということ、それどころか以前より悪くなっ たということ。今年の冬は特に五百万人が餓死に 直面して、数十万が死ぬであろうと言われている。 あのとき、復興支援のときに、この復興支援ブー ムが起きたときに、はっきりカルザイ政権は言っ -25 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 た。君らの衣食住は保障するから帰ってこいと言 って難民たちを呼び返した。その結末がこれだと いう失望感、みんなが食えないということですね。 それから、カルザイ政権自身が外国の後ろ盾によ って成り立っておる政権だということ、この二つ が非常に大きな要因として大きな不信感を生んで いるというのが事実だと思います。 みんなが言っているのは、政府がないというこ とをもう東部でははっきり言っている。米軍が引 き揚げると数日で崩れるんじゃないかと私が聞く と、いや、数日じゃない、一分で崩れると言って いる。こういった不信感がやはり民生向上を無視 して、民生を軍事活動に従属させてきた、そのこ との結末が今破綻となって現れていると、こうい うふうに理解してほぼ正確ではないかというふう に思います。 以上です。 ○井上哲士君先ほど力石さんからも麻薬の話が ちょっと出たんですが、大飢饉のときも旧タリバ ン政権のときは非常に厳格でほぼケシの栽培は根 絶をしたというふうに聞いておるんですが、この 間急速に伸びてきているわけですね。 よくこの間のケシ栽培の増加とタリバンと結び 付けて論じられるんですが、かつては厳しく規制 したということが言われ、そこをどう考えたらい いかなというのが私ちょっとよく分からないんで すが、今のこのケシ栽培の急増ということと、そ れからタリバンなどとの関係も含めて、それぞれ からまたお願いしたいと思います。 ○参考人(力石寿郎君 ) ケシの問題はかなり深 刻に推移していまして、今世界の九三%のケシが アフガニスタンで栽培されていると言われており ます。 これが、旧タリバン政権時代にはほとんどなか ったものが急速にそれだけのものになったという 背景には、やはり反政府武装勢力の人たちの資金 源ということになるからだというふうに思います。 また、それを買う外国がそれだけいると、お客さ んがですね、という関係で成り立っているものだ と思いますので、これを根絶させるためにイギリ スなんかが中心になって現地でいろんな計画を作 ってやってきましたけれども、どんどん事態は悪 化するばかりということで、今非常にケシの問題 というのは一つ頭が痛い、開発を進める上でも一 つの大きな障害になっているというふうに理解を しております。 ○参考人(中村哲君 ) ケシの問題については、 私はずっと代々の政権を見てきましたけれども、 空爆以後、米軍の占領下で急速に広がったという 事実、これはどうしようもない。これはいろんな 説がありますけれども、先ほどJICAの方がお っしゃられたとおりで、一番根底にあるのは、み んなが食えない、小麦を作るよりはケシを作った 方が百倍収入が多いというのでやむを得ず作ると いうケースが私は多いと思います。 これにはいろいろありますけれども、政府の要 人の親族が麻薬王であるといううわさも飛び交っ ておる。麻薬マフィアの跳梁。カルザイ政権が、 余りにケシだケシだというのでついに怒りまして、 使う方も悪いんじゃないかと。禁煙運動をあれだ けやっているなら、ケシの絶滅をどうして使う方 はやらないんだというのも一理あるわけでありま して、私はケシ問題については、これは貧困の絶 滅以外にケシをなくす方法はないと思います。 〔委員長退席、理事浅尾慶一郎君着席〕 実際に私たちの新しいかんがい地域、だれも、 あんなもの作って、やばいもの作って食っていこ うと喜んで作る人はないわけで、自給自足できる ならそっちがいいわけで、実際、私たちのかんが い地におきましてはケシを作っている農家は一軒 もありません。だから、農村を豊かにすること、 これ以外に根本的な方法はないというふうに私は 思っております。 ○井上哲士君衆議院の質疑の際に、自民党の方 の質疑の中でペシャワール会の話が出たんですけ れども、一つは、元々アフガンというのは砂漠の 国なのに、砂漠の国の干ばつというのは一体何な んだかよく分からないと、こういう質問が自民党 -26 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 議員から出ました。これ中村参考人、いかがでし ょうか。 ○参考人(中村哲君 これは、想像だけで物を 言ってほしくない、実際に現地を視察して見てい ただきたいと思います。かつて、十数年前豊かな 穀倉地帯であった地域が軒並み砂漠化していくと いう事態、これは実際に私の目の前で起きておる わけでありまして、現地の人に聞いていただきた い。 アフガニスタン全体はオアシス農業でありまし て、カレーズと呼ばれる地下水を利用したり、あ るいは大河川から流れてくる用水路を引いて、 元々砂漠だった地域を人工的に造って耕作地にし たオアシス農業なんですね。ところが、それを養 う水が年々かれてきて砂漠化してきたという実態 がある。それが半端なものではない。現在、ヘラ ート、それからカーブルでの盆地地域の地下水の 下降というのは半端なものではない。また、川の 水、カーブル川、クナール川の川の水の低下とい うのは壊滅的な打撃をこのオアシス農業に与える と。 乾燥地に干ばつというのはどういうことなんだ というのは、私のように一生懸命してきた人間に ついてはナンセンス。これは実情を見て、そこで 困っている農民の実情を聞いてから論議していた だきたい。既に数百万人の人たちが生活する空間 を失っている。そのことを十分見極めずに、勝手 な漫画のような議論をしないでくれと私は言いた いわけであります。 以上であります。 ○井上哲士君実は、同じ人物が更にこう言って いるんですね、同じ先生が言われています。ペシ ャワール会は千五百の井戸を掘ったと。では、な ぜ伊藤さんが殺されたのでしょうか。これは、二 〇〇三年九月に大統領から深掘りの禁止令という のが出ているんです。井戸を掘っちゃいけないと。 なぜ掘っちゃいけないかといえば、深い井戸を掘 ると浅い井戸の水が枯渇する。そして、自然水路 と言われるカレーズがうまくいかなくなってしま う。だから、むやみに井戸を掘っちゃいけないん ですと。ダムを造れば水をつくっていいじゃない かと言うと下流で農業をしておる人が困ると、こ ういう発言をされておられますが、これについて はどうお考えでしょうか。 ○参考人(中村哲君 ) それはある程度本当です ね。私たちも、地下水によるかんがいというのは これは余りに影響が多いということで基本的にし ないという方針で、大河川からの取水あるいは雨 水の地表水をためるため池の無数の造成によって 水を確保するという方針に切り替えました。 先ほどの話にちょっと戻らざるを得ないですけ れども、乾燥地での干ばつはどうなんだという意 見も、これはかつてアフガニスタンは一〇〇%に 近い自給率を誇っておった農業立国であるという ことを知らずに、ただ乾燥地だから乾いてもどう ってことないんじゃないかというのについては私 は怒りを感じると、私はそう思いますね。数百万 の人がそのために難民化している、そのために傭 兵化して治安がますます乱れているというときに 何てことを言うんだというふうに私は言いたいと 思います。つまり、食料自給率が半分に落ちたと いうことは、あの自給自足の国で半分の人が食え なくなったということなんであります。 地下水についてはそういうことでありまして、 地下水利用というのは限界でありまして、私は、 政府が出した深掘りの井戸の禁止あるいはダムの 禁止というのはある程度うなずけるものがあると 思います。 以上です。 ○井上哲士君ちょっと先ほどの質問にも返るん ですが、経済成長が毎年一〇%というふうに言わ れながら八五%が従事をする農業が非常に深刻な 実態があるということが、今お話がありました。 要するに、農業の自給を高めていく、農業で 人々が暮らしていけるようにするというのが一番 ポイントだとお聞きをして思うんですが、ここは こういうふうに立ち遅れたままむしろ大変な事態 が進んでいるということは、どこに一体問題があ -27 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 るのか。国際支援なども改善するべきところがあ るんじゃないかと思うんですが、これもそれぞれ からお願いをしたいと思います。 ○参考人(中村哲君 これも私たちが初めから 言っていることの繰り返しですけれども、現地に 合った支援というのをもう少し調査してほしかっ た。これは先ほど民主党の方が御質問されたとお りでありますけれども、そんなに慌てなくていい から、現地にとって本当に何が大切なのかという のをもう少しじっくり見て決めてほしかったとい うことがあります。 みんなが食えないときに、あなたたちがこんな 惨めな姿になったのも教育がないばかりになった のよと言わんばかりに鉛筆を配っていく。学校が 悪いと言っているんじゃないですよ、教育が悪い と言っているんじゃないですよ。しかし、学校へ 行くにも、子供が生きてなきゃ行けないじゃない ですか。そういう現実を無視して上澄みの部分だ けが突出して行われた。放送、道路、これは必要 なものであります。しかし、それ以前にみんな生 きていかなくちゃいけないということがどこか忘 れられていた、このことが問題なんじゃないかと いうふうに思います。さらに、それを戦争で解決 しようとすることによって、食えなくなった人た ちが米軍の傭兵あるいは反政府勢力の傭兵として 大量に流れていくという悪循環をつくってしまっ た。これがアフガン復興の現在の破綻の姿であろ うと私は思います。 以上です。 ○参考人(力石寿郎君 ) 中村さんがおっしゃる とおり、アフガニスタンというのは本来豊かな農 業国であったわけでありますので、私どもも農業 分野については力を入れております。 何をやっているかというと、今すぐ即効性のあ るものはなかなかできないんでありますけれども、 残されている農業試験場を少し手を入れて、それ でアフガニスタンの農業普及員、研究員を育てる と。それはどういうことかというと、今のアフガ ニスタンの土壌に合った、しかも収穫量の多い作 物は何がいいのかというような選定ですとか、あ るいは品種の改良、ジャララバードにおきまして はかんがい稲作の指導をやってその技術の普及と いうようなことを地味ではありますけれども続け ております。 これは、確かに中村さんのおっしゃるように、 いったん避難民として国外に行ってしまってその 土地が荒れてしまって、それでまた帰ってきたと きはもう砂漠化しているとか、農地に適用できな いとかということがかなりあちこちで起こってい るのかなと思いますけれども、日本としてできる のは、やはり現地に合った、ニーズに合った農業 とは何かというその同定をいたしまして、現地に 張り付いて日本の技術専門家が、農業専門家が、 日々相手側の職員、スタッフを教育訓練して、そ れをもって更に地方の方に出かけていって農業普 及をやっていくと、こういう地道な積み重ね以外 にないのかなと思います。即効性のある解決策と いうのは恐らくないんじゃないかなと思っており ます。 ○井上哲士君時間ですので終わります。 本当にありがとうございました。 ○山内徳信君本日は、参考人の皆さん方には、 長時間になりまして大変お疲れのところでござい ますが、私の持ち時間、二十八分でございます。 どうぞ最後まで、皆さん方のお話を私たちは今後 に生かしていきたいという思いで勉強させていた だきたいと思います。 私は、社民党・護憲連合の山内徳信であります。 特に遠方から、参議院の外交防衛委員会の参考人 として、本当にお忙しい中を、飛行機を、国連機 を乗り継いで来られたということを伺っておりま して、心から感謝を申し上げたいと思います。 〔理事浅尾慶一郎君退席、委員長着席〕 沖縄県は、去る太平洋戦争の末期、日本国唯一 の日米両軍による地上戦の死闘が繰り広げられた 県であります。私は少年でございましたが、戦争 の理不尽さと戦場の地獄を体験をした者の一人で あります。したがいまして、中村さんのあの現地 -28 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 のお話、あの大干ばつ、あの子供たち、そして緑 豊かな地域がしばらくすると砂漠化しておる、そ して水路を開いていく、井戸を掘っていく、そう いうお話を伺っておりますと、私は戦後三か所ぐ らいの収容所に収容されていました。学校へ行か ずに、夜になると、午前二時ごろ、小学校五年生 でしたが、鉄条網の中から逃げて食料を探しに出 かけていくんです。そして昼、米軍の基地の近く、 陣地の近くまで行って、埋められた缶詰など、あ るいはちり捨て場へ行って食えるのを集めて、ま た夜夜中、収容所にこっそり潜っていくと、そう いう体験をした少年の日が思い起こされてなりま せん。 さて、沖縄県は、アジア太平洋地域の平和の構 築を目指して沖縄平和賞を制定いたしました。平 成十四年八月三十日、中村哲さんはペシャワール 会の現地代表として初の沖縄平和賞に輝かれまし た。改めてこの場をお借りいたしまして心からお 喜びを申し上げます。現地における筆舌に尽くし 得ない御苦労に心から敬意を表し、今後の御奮闘 を祈念申し上げ、以下数点についてお伺いしたい と存じます。 第一点目は、なぜテロが発生するのか。テロの 発生要因の根源的な論議を私は公式の場で聞いた ことがありません。真にテロをなくしていくため に何が必要か、日本政府として何に力を入れるべ きか、現地の生の声をお聞きしたいと思います。 これが第一点であります。よろしくお願いいたし ます。 ○参考人(中村哲君 ) なぜテロが発生するか、 これはいろんな考え方、見方があると思いますけ れども、そもそもテロというのは何なのか。我々、 赤穂四十七士を、飛躍するようでありますけれど も、あれは明らかにテロリスト、これをテロリス トと呼ぶ人は日本人の中にいないと思います。明 治維新の志士たちをテロリストと呼ぶ人はいない と思います。 元々テロというのは、まあ話が抽象的になりま すけれども、弱い人が強い人に向かって用いる最 終手段であります。窮鼠かえって猫をかむと、そ れがテロというものではないかと思います。 我々、テロリズム、テロリズムと言いますけれ ども、赤穂浪士をテロリストと呼ぶのも嫌だし、 西郷隆盛をテロリストと言うのも嫌なんですね。 それを考えますと、テロは、テロリズムはいいと は言いませんけれども、弱い者が追い詰められた ときに使う最終手段。現に、浅沼書記長がテロリ ストにやられたけれども、あれはちょっと違いま すけれども、それを考えますと、弱い者を追い詰 めないということじゃないかと思います。 具体的には、アフガニスタンにおきましては貧 困の退治。みんなが食えない状態、食えないとみ んな悲壮になって、フランス革命もロシア革命も、 食えない、追い詰められた状態で爆発的に発生し た。今アフガニスタンはまさにその状態でありま して、フランス革命前夜に近いと。私たち、私が 訴えたいのは、こういった状態をまず解消して、 まともに人が食えるようにしてほしいと、こうい うことであります。これがテロをなくす一番の要 因であります。 孫子の兵法にありますけれども、敵を決して追 い詰めちゃいけない、逃げ道をつくって圧迫しな くちゃいけないという点から見ても、今の米軍の 戦略はこれは大失脚と。やはりこれは貧困の撲滅、 これが中心に据えられないと、ある程度の武力行 使というのはやむを得ないにしても、それを中心 に据えないと永遠にテロはなくならないと私は思 っております。 以上でございます。これは大きなテーマですの で、話せば長くなるので御勘弁願います。 ○山内徳信君二点目は、日本政府は対テロ戦争 の一環として新テロ特措法を延長し、引き続きイ ンド洋上でアメリカ等多国籍の軍艦に無償給油を 続けるため、法案の一部改正の提案がされ、今参 議院外交防衛委員会で審議中であります。 アフガン戦争やイラク戦争を目の当たりにされ ている中村哲さんは、日本政府のやっておるイン ド洋における自衛艦による無償の燃料給油活動が -29 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 国益であり、テロをなくするための国際貢献であ ると政府は強調されておりますが、中村さんの御 見解を承りたいと思います。 ○参考人(中村哲君 お答えします。 これは今まで述べてきたとおりでありまして、 決して建設的なことにはならない。国のおきてま で破って戦争に協力するのかと言われても仕方が ない。これは戦争ではないと言っても、だれも納 得しないでしょう。日中戦争が満州事変だと言っ たって、あれは事変であって戦争ではないと、日 本政府は当時言ってた。しかし、今ごろそんなこ と言ったって、だれも信用しない。OEFが戦争 ではないと言っても、これは対テロ戦争なんて自 分から言っている。しかも報復戦争だということ をアメリカが自分から言っている。それに協力す ること自体が、私はこの日本の戦後のおきてを破 るものだというふうに思います。 簡単に憲法改正だのをそのためにするというの は本末転倒でありまして、戦争というのはそんな お花畑のようなものじゃない。現在の日本国憲法 というのは、そういった私たちの御先祖様の血と 汗によってできた一つの記念塔であります。それ を簡単に漫画のような議論で変えちゃいけないと、 私はそう思いますね。 これはやっぱり日本が日本としての使命がある。 ちょっと目先の、先ほども言いましたけれども、 目先のこの経済的利益だとか、あるいはこの政治 的な利害だとかいうことで決めることではない。 恐らくこの対テロ法案をめぐって、日本というの は決定的な分岐路に立っておるというふうに私は 思っております。 私は、あと二十年も三十年も生きませんけれど も、自分の子供たちのことを心配する。そのとき に責任が取れるのかと私は問いたいわけでありま す。単に憲法違反だとか九条がどうのこうのだと か解釈だとかよく分かりません。しかし、戦争は 戦争だ、人殺しは人殺しだ。民法で言えばアメリ カが殺人者とすれば日本は殺人幇助罪に相当する と、私はかように思っております。 以上でございます。 ○山内徳信君三点目は、先般発生しました不幸 な悲しい出来事について質問をさせていただきま す。 ペシャワール会の現地スタッフの一員でありま した伊藤和也さんが何者かに拉致され殺害される という痛ましい事件が起こりました。伊藤和也さ んの捜索のために険しい山岳地帯を多くのアフガ ンの人々が頑張っている姿がテレビを通して私も 知ることができました。伊藤和也さんが現地の 人々から信頼されている、そのことが手に取るよ うに分かりました。 伊藤和也さんの事件を通して、私はそのテレビ を見て新聞を読んだ後の、このことを私はどのよ うに解釈すればいいのかということを一人考えて みました。これは日本政府に対する警告ではなか ろうかというふうに思いました。アメリカによる アフガン戦争やイラク戦争を後方から支援し、追 従している日本政府に対する警告だと私は感じま した。 そこまで、同じ日本人で同じ国会議員でありな がら、なぜ私がそこまで気付くかといいますと、 それは先ほど、テロは追い詰められた弱い人々が 支配をしておる者に対する一つの抵抗であるとい う趣旨のお話がございました。沖縄県は、広島、 長崎、東京大空襲を含めていっぱい戦争の犠牲を 被ってきましたが、とりわけ半年近い戦場になっ て、アメリカのジャーナリストによると、世界の 戦争史上かつてない地獄の凄惨な姿が沖縄戦であ ったというふうに本国に打電をしております。そ ういう中を生きて、しかも二十七年間、アメリカ 軍の直接統治下にあって無権利の状態でした。既 に憲法ができて人権が保障され、主権在民が、平 和が唱えられておるときに、独り沖縄は二十七年 間無権利の状態を生きてきた。 私が感じたのは、伊藤さんの犠牲というのは、 それは日本政府と日本国民にある種の警告を発し ておるんだと、こういうふうに受け止めたわけで ございます。伊藤さんについては既に前の方々か -30 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 らの質問でお答えもいただいておりますが、改め てこの場で、私の警告という受け止め方について、 現地で必死に頑張ってこられた、あるいは中村さ んのメンバーであった伊藤さんの犠牲を無にして はいけないという思いでの質問でございます。よ ろしく御見解を賜りたいと思います。 ○参考人(中村哲君 お答えします。 伊藤和也君のことについては余り話したくない です。 一つは、先ほどセキュリティーという面で国が 守る、しなくちゃいけないこと、それから個人で しなくちゃいけないこと、これは両面あると言い ましたけれども、私たちとしてもこれを教訓にし て生かしたいというふうに思っております。 私たちは、この伊藤和也君の死と同時に思い出 すのは、これは日本側と現地側と温度差がややあ りまして、過去五名現地で私たちの事業のために 殉職者を出しております。伊藤君が六人目であり ます。そのうち三人は、アフガン戦争中、すなわ ちソ連軍の戦争中に死亡しました。一人は、看護 師でしたが、山の中の診療所を造りに行って、川 の中に転落して死亡しました。一人は、井戸を掘 っている最中に転落して死亡しました。現地では 六人目ということになりますけれども、私は、こ れは、誤解、語弊がありますけれども、人間が生 きて生まれてくるその尊さというのは世界中同じ であろうというふうに思います。ということを考 えますと、語弊はありますけれども、伊藤君の死 を特別視はしたくないというのはどこか自分の中 にあります。 しかし、それを政治的に利用するというのは、 これは許されない。貴重な犠牲を出したから、日 本も戦争に、対テロ戦争に協力しなきゃなんてこ とを聞くと、これは私は血圧が上がる思いがする。 だから、私たちは、この伊藤君について言うな らば、人間の生死、それから親の気持ち、これは 世界中同じであると。これは頭で分かっても、な かなか身近で考えにくいんですね。しかし、そう はいっても、現地の人たちと身近にあった私にと りましては六人目の殉職者でありまして、その人 たちの死を無駄にしてはいけない。そのためにこ そ、これで我々はしっぽ巻いて逃げるということ はない。むしろ活動を強化いたしまして、一層力 を尽くしたいというふうに思っております。 以上でございます。 ○山内徳信君ありがとうございます。 私は、踏んでいる者には踏まれている者の痛み を知らないと、この言葉を沖縄にいてよく使って まいりました。今、民主主義だとかきれいなこと を言って外国の軍隊がアフガンやあるいはイラク に入ってきたわけです。ところが、状況は御承知 のとおり、ベトナムと同じように泥沼化をしてお るような状況だと思っております。 私は、きれいな言葉じゃなくして、それぞれの 国、それぞれの地域を中心とした自治というもの を育てていく。経済的には、中村さんがおっしゃ るように、食っていけるような、生活できるよう な農業環境を整備をしていく。そういうふうにし て、宗教も環境も違う中にあって、そこにふさわ しい自治というのが最も望ましいんだろうと思い ます。 二十七年間の沖縄の異民族統治から学んだ県民 の教訓は、自治に勝る統治はない、自治に勝る民 主主義はないというのが沖縄県民の声でございま した。したがって、任命主席を押し付けられた県 民は、自ら選挙で主席を選ぶ、自ら県知事を選ぶ んだといって自治の獲得に立ち上がって、人権を 守り抜くためには平和憲法の下に復帰する以外に ないと、こういうふうに壮大な復帰闘争が始まる わけであります。 中村さんにお伺いいたします。アメリカ政府に よる、あるいはアメリカ軍によるアフガン、イラ クの民主化の可能性についてお伺いしたいと思い ます。 ○参考人(中村哲君 ) 自治による民主化という ことですけれども、私たちが想像するような中央 集権国家というのは、アフガニスタンでは将来的 にも生まれようがないと思います。アフガニスタ -31 -参議院記録部 平成20年11月5日外交防衛【未定稿】 ンは初めから自治の国であり、各民族、部族が寄 り合って、それぞれの生活スタイルを守りながら、 多少争いはありましてもそれなりにまとまってき た。そのことは、そのことが絶対いいとは言いま せんけれども、それはそれで責めるべきものでは ないのではないかと。 世界中何でもかんでも、いわゆるデモクラシー と称して中央集権国家をつくることがいいとは私 は思っておりません。むしろヨーロッパの方が進 んでおりまして、地方自治、これは経済的にもロ スが少ないんですね。そういうことを考えますと、 アフガニスタンはアフガニスタンの形があってい いんじゃないかと。それは彼ら自身が決めること なんじゃないか。外国軍が行って、このデモクラ シーじゃ駄目なんだと、そのデモクラシーの中身 は、もちろん民主主義という中身は我々と考えて いるものは違うでしょうけれども、私は、そうい う押し付けはしてはいけない。基本的にその地域 のことは地域のことで守るべきだというふうに私 は思っています。 将来的にも、アフガニスタンが現在我々が想像 するような中央集権の国民国家ができる見通しは、 あってもまだまだ先だと思えますというふうに私 は思います。 以上でございます。 ○山内徳信君ありがとうございました。 これをもって終わります。 ○委員長(北~俊美君 ) 参考人に対する質疑は この程度にとどめます。 この際、一言御礼を申し上げます。 参考人のお二方には、長時間にわたり貴重な御 意見をお述べをいただきまして誠にありがとうご ざいました。委員会を代表して厚く御礼を申し上 げます。ありがとうございました。(拍手 ) 本日はこれにて散会いたします。 午後四時一分散 会 -32 -参議院記録部